その25 月100万の給与
その25 月100万の給与
ツカサの契約は1年で終わり、累計で、約2年の現場経験がつき、
おまけにC言語の実務経験がついた。
専門学校でC言語を勉強していたので、のみこみは早かったそうだ。
次の仕事は普通にある。
ITバブルの時期で、C言語の技術者が不足していた。
仕事を選び放題になった。
他社の経由のない直案件(仕事)に、ツカサを常駐させた。
三年の経験がつけば、ツカサも一人前の技術者になる。
エスカレーターに乗ったと思った。
五年後には、月100万以上の「単金」も夢ではない。
ツカサが現場に着任して四日目だった。
客先から電話があり、ツカサは出社していないという。
ツカサに電話した。
「ツカサ君、どうした?」
「すいません。この現場、やめます」
「え!何があった?」
「毎日、仕事が終わって報告発表会があるんですよ。
僕には苦痛なんです。
それにリーダーが軍隊みたいに高飛車で命令してきて、
もう現場に行きたくないんです」
「しかし、ツカサ君も、子供じゃないんだ。社会人だろ。
気持ちはわかったから、せめて1ヶ月は現場に行ってもらえないか。
この業界は常駐をやめたい場合は1ヶ月前通知のルールがあるんだ」
ツカサからは何の返事もなく、黙秘権行使状態となった。
電話では説得できない。、
「会いたい」と言ったが、ツカサは黙ったままだった。
即座に判断した。
「ツカサ君、わかった。
次の仕事を探すから、また連絡する」
話しによる説得は、離れていくだけだ。
技術者が貝状態になるパターンである。
大事なのは客より、技術者だ。
現場に行って、出てきた関係者の前で、
土下座して謝罪した。
「無責任」だとか、「御社としてどう責任をとるのか」など厳しい叱咤を受けた。
ひたすら低姿勢で平謝りして、交代要員を探すことでその場を切り抜けた。
社へ戻り、検討するが、会社の社員に空きはなく、
知り合いの会社にメールしたが、交代要員は、みつからなかった。
ツカサのスキルが上がった証明でもある。
ツカサのスキルクラスは、日本のIT業界で不足している。
翌日、客先に行って「交代がみつからない」と報告すると、
客は機関銃のように叱責の言葉を浴びせた。
ひたすら詫びた。土下座して謝り続けた。
なんと言われようと客に反論しない、口約束もしない、
ただひたすら「申し訳ありません」をくりかえした。
損害賠償だと言われた。
「それだけは許してほしい」と、
ただひたすら頭をひれ伏して謝った。
開放されたのは約30分後だった。
気持ち的には長時間を要したように思えた。
お詫びの経験から、クレームは30分も続かない。
直案件、つまり他社を経由しない仕事は、
利益率は高いが技術者に問題があると、
まともにクレームを受けるリスクがある。
僕は会社に戻ると、ツカサの次の仕事を探した。
謝罪で受けた心労など、気にしていられない。
ツカサの生計がかかっている。
探すにあたり、先方に条件をつけた。
報告会議を行わない現場であること。
ツカサは会議で発表する行為にはトラウマがあるようだ。
東北なまりで、何かあったのだろうか?
パソコンをみると、いくつかツカサへの仕事のメールが来ていて、
報告会議のない仕事を選んだ。
ツカサは即採用された。ラッキーにも、
今後主流になるJava言語をマスターできる現場だった。
ツカサは喜んで着任した。
ツカサが着任して数日が経過したが、いつ突然に途中退場するか不安だった。
なるようになると自分に言い聞かせた。
「レットイットビー、ケセラセラ、ケサラケサラ」と。
3つとも同じような意味の歌を連続して、
お経のように口ずさんで居直った。