表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
281/473

その23 コメツキな技術者


東京事業所の売上が黒字展開を始めた頃。

公明から電話があった。

「公明です。お久しぶりです」

「公明君か? 久しぶりだね」

公明が言った。

「友人のツカサがプログラマーで、仕事を探しているんです」

「わかった、すぐ会おう。会社で待っているよ」

 数日後に東京事業所に、ツカサは一人でやってきた。

ツカサは、まだ少年の面影があり、色は白く、

人見知りしそうな目をしていた。

無口で、ただ頭を下げるだけの挨拶だった。

職務経歴書をみると、東北出身で年齢は22歳、

プログラマーとしてはVBが8ヶ月程度の経験だった。

「ツカサ君、うちに入社しない?」

「いえ、正社員は不向きなんです」

「そうか、惜しいなあ。

まあ、フリーの方が給与高いからな」

ツカサは、サラリーマンには向かない、団体行動は好まない技術者のようだ。

はじめて会った技術者では、まず顔で判断していた。

これまで会った優秀な技術者の顔に似ているか、照合する。

ツカサの顔を見るといかにもプログラマー向きの人相だ。

次に、声を聞いてみる。

プログラムを多く作れば作るほど声が出なくなる。

声が大きい、よくしゃべるような技術者を見ると、

言い訳がうまいだけで渡ってきた技術者だと思う。

満足にプログラミングができなくても、うまい言い訳で逃れる。

逃げて優秀なプログラマーに任せてしまえばいいのだ。

名プログラマーに、おしゃべりは少ない。

静かで黙々と仕事をする。

人とのコミュニケーションを嫌う傾向にある。

コンピュータとは、プログラミング言語を通して

キーボードで会話していくので、人と話す必要はない。

プログラムを作れば作るほど、話せなくなる。

声も細くなっていく。

僕もプログラマー時代は、だんだんに話すのが億劫になり、

声が細くなっていった。

「ツカサ君、まだ経験年数が1年未満だから、

ウチの正社員なら会社で修行ができるが、

他の会社で修行させてくれるところを探してみるよ。

プログラマーは3年以上経験していないと一人前にみられないんだ。

良い紹介先が見つかればいいが」

ツカサは何も答えず、うなづくだけだった。


ツカサの仕事がみつかった。

業界の先輩であり師匠でもある優作師匠からだった。

「おい、ツカサちゃんを、ウチの技術者につけてやるぞ」

「本当ですか。なかなか見つからないので、

あきらめていました」

「いや、たまたまウチで仕事がとれた。

予算がきついので一人分は出せないんだ」

「ああいいですよ。

明日にでも、ツカサを連れて行きます。

面接よろしくお願いします」

「ウチの技術者が面接して採用を決める。

今のところスキルシート上では問題ない」

数日後に面接が行われた。

ツカサは片言説明しただけで、

愛想もない、ひたすら沈黙を守る。


面接は黙秘権を行使するべきと、勘違いしているようだ。

面接が終わって、ツカサを帰らせて、面接結果となった。

「まったくおとなしいな。コメツキムシのように、頭を何度もさげて。

でもプログラミングはできそうだな」

と、師匠は笑顔で言った。

面接した技術者も師匠に異論がないような顔をした。

採用責任を師匠に任せたという感じだ。

「よっしゃ、これで採用だ」

「ありがとうございます。

じゃ、メールでいただいた『月単金』60万でいいですか?」

「悪いな、安くて。とりあえず、1ヶ月は様子を見させてくれ」

「はい、ツカサは契約社員(個人事業主)ですから、

問題ないです」

「じゃ、来週から着任だ」

「かしこまりました」

出されたコーヒーを飲むと、僕は世間話ついでにたずねた。

「最近御社はどうですか?」

「バブルがはじけて金融の仕事がガタ落ちだ。

そうそう、先週、すごい現場をみて来た」

「また地獄ですか?」

「ああ!地獄に、エロが混雑した現場だ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ