その22 解任
宮本は、公明からの紹介だった。
公明は宮本と専門学校が同じだった。
僕はフリー時代に高田馬場にあるシステム会社に統括部長として着任した。
会社に公明がいて、最初の僕の仕事は「公明君が会社をやめる」だった。
僕は公明と喫茶店に行って、コーヒーを注文して、
世間話から切り出した。
「この前、映画でエキストラをやったと、
社内で話しているのが聞こえたけど、なんという映画に出たんだ?」
「踊る大捜査線です」
「おお、それはすごいな。なんの役?」
「警官です」
「へぇ~、観てみるよ。
ところで、会社をやめたいんだって?」
「はい」
「どうして?」
「僕にはプログラマーは向かないことがわかったんです」
「でも、約1年も経験しているそうじゃないか。
もったいないなぁ」
「向かないとわかるのに、1年かかりました」
「そうか!残念だ。それでは最後の日は食事でもしよう」
僕は公明の退職した日に、大塚駅前で焼肉をごちそうした。
公明は義理堅い男で、僕を忘れなかったようだ。
高田馬場の会社再建は、うまくゆかずに
役職を解任された。
大手ソフト会社に強力なコネがない。
システム受託の仕事はなく、社員を常駐させて稼いでいた。
僕が、いきなりの統括部長というのも、おかしい話だ。
社長には何か魂胆がありそうだと思った。
営業で売上をあげたい。新規顧客の開拓を行った。
会社は営業を代行会社に丸投げしていた。
入社2週間目の頃に、社長が言い出した。
「営業をしてもらっているが、なかなか成果が上がらないようだ。
しばらく出向してくれないだろうか?」
僕をSEとして大手ソフト会社へ派遣しようとしている。
僕は拒否した。