その21 宮本直樹
僕は通夜に出席した。葬儀場へ入るために信号待ちをしていた。
男が録音マイクを持って
「週刊〇〇ですが、ちょっと宮本さんについて教えてください」 と言った。
「いいですよ」 と、僕は答えた。
「宮本さんは会社を経営していたと聞いていますが?」
「ええ、彼はIT会社の取締役社長でした。
社名はラクシュミ、意味はフランス語で幸福を司る神、オリジナルはインドのようです。私はその会社を手伝っていましたよ」
葬儀場入口付近にもマスコミ関係者が多数立っていて、
テレビカメラも何台か並んでいた。
通夜には親族や関係者約350人が参列したと新聞で知った。
宮本の友人らが「世界の宮本だ」と書いた色紙が遺影の前に飾られていた。
「世界の宮本?」と独り言を言った。初耳だった。
宮本の下で働いていた会社関係者が5名来ていた。
僕は、25歳の痩せていて、どこか少年のように見えるヨシモトのところへ行った。
僕の顔を見たヨシモトが、さみしそうな顔をして言った。
「実はあの日、宮本さんといっしょに秋葉原にいました」
ヨシモトと宮本が秋葉原を歩いていると、
およそ30m先の交差点で、交通事故が起こったようで、人が集まっていた。
近づくと、集まった群衆が異様な動きをしている。
何かから逃げ出しているような感じだった。
ヨシモトは思わず逃げてしまった。ヨシモトは話を終えると、宮本に申し訳ない、
宮本を置き去りしたのを後悔している表情をした。
僕は言った。「あいつは目が悪すぎるからな」
宮本は牛乳ビンの底のような眼鏡をかけていて、
待ち合わせをしても、僕だと気づくのに、
50センチ以内に近づかないとわからなかった。
僕は気になることをヨシモトに質問した。
「なぜ、世界の宮本なんだ?」
「吉祥寺のゲームの大会で優勝した時に言われたんです。
アヴァロンの鍵・対戦型ゲームで、宮本さんは負け知らずでした」
「あいつから大会で優勝したなんて聞いてなかった。
意外な一面を知ったよ」