その17 ボンタン飴の相合傘
社内失業者三人衆の最後はボンタン飴だ。
風貌は、アンパンマンのような顔で、25歳、
鹿児島市にある菓子屋の御曹司だそうで、
どこか坊ちゃん風だ。
職務経歴にVBとあるので、本人に確認すると、
エクセルの延長のVBAができる程度で、
プログラマーではない。
前の会社の村直先輩にお願いして、
ボンタン飴をやとってもらえた。
村直は転職して銀座にある外資系のT社で
経理部長をしていた。
ボンタン飴はT社経理システムの
エクセル作成補助で常駐した。
1ヶ月が過ぎた頃の朝9時すぎに、村直から電話があった。
「せっかく紹介してもらったが、もう我慢できないんだ」
「いったい何があったんです?」
「ストーカーだよ」
「え!」
村直は続けて言った。
「社長室に美人の秘書がいるんだが、
あいつ、何を勘違いしたか、
その秘書にストーカーしているんだ」
「わかりました。お昼に彼と会います」
T社付近の喫茶店でボンタン飴と待ち合わせした。
ボンタン飴と会うと、
何で呼ばれたのかという顔をしている。
「秘書の優子さん、知っているかい?」と僕はたずねた。
「ええ・・・・。今交際しているんですが」と、
自信満々に、ボンタン飴はこたえた。
「藪の中」という芥川の小説があるが、
男と女の関係はストーカーすれすれで、
お互いに妄想の世界にいるのかもしれない。
ボンタン飴が優子との出会いを語りだした。
会社の仕事を終えて帰ろうとすると、
外は雨だった。
ボンタン飴は傘がないので、立ち往生していると、
優子が見つけて銀座駅まで相合傘をした。
ボンタン飴は何を思ったか、
優子が帰る時間を見計らい、
1階でいつも待っている。
優子が、いっしょに帰りたがっていると思っている。
僕は優子の方はどう思っているのか、
村直に確認した。
ボンタン飴と別れてから、村直に電話した。
「今からお伺いしてよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ、7階だよ」
7階のT社会議室で、
ボンタン飴から聞いた話を村直に伝えた。
すると村直は言った。
「優子嬢はアイツが待っているのを嫌がって、
社長に直訴したんだ。俺はアイツをかばったよ。
しかし俺が命じた残業を拒否して、
1階で優子嬢を待っていると今朝知って、
許せないと思ったよ」
「わかりました。即刻退場させます。
ご迷惑をおかけしました」と頭を下げた。
長期の社内失業者は各々に問題をかかえている。
無理に常駐させると、
客先に迷惑をかけるだけだと痛感した。
社内失業三人衆は半年もしないで、会社を去っていった。
所長が三人をかばっていたのだ。
三人は技術者を装った素人だった。
所長は見抜けないで雇ってしまった。




