その16 ウスバカゲロウ君
次に派遣が決まったのはウスバカゲロウだった。
金融で通常のプログラム言語であるCOBOLができると言うので、
電力会社関連のシステム会社へ派遣が決まった。
数カ月は何事もなかった。
ウスバカゲロウは派遣先でうまく仕事をしていると思ったが、事件が起こった。
派遣先から無断欠勤の電話があり、
携帯に電話するが不通だった。
無断欠勤の翌日の朝だった。
「息子が昨日から帰らないんです」と母親から電話があった。
失踪しているウスバカゲロウが気になって、
何度も携帯に電話すると、午後の2時ごろ
ウスバカゲロウの携帯電話とつながった。
「昨日からどこにいたんだ?」とたずねた。
「ずっと公園で」と、ウスバカゲロウは言ったが、
それ以上は沈黙だった。
僕はこれ以上質問しないほうがよいと思って、
「会社で待っている」と言った。
30分もしないだろう、神保町の営業所へ、
ウスバカゲロウはすっかり憔悴した顔で登場した。
おそらく営業所付近の公園にいたに違いない。
自殺しかねない落ち込みようだった。
ウスバカゲロウは、COBOLを使ったプログラムの経験が職務経歴書上では、
2年以上あることになっているが、
ブログラムを作成したことはなく、見ていただけだった。
業界での表現で「自分の上をCOBOLが通過しているだけ」というものだ。
ウスバカゲロウが行った仕事は資料の作成で、
コピー作業も含まれていたという。
今回、電力会社関連のシステム会社に常駐して、
最初の上司は、うまくかばってくれていたが、
数カ月後に上司が変わり、新しい上司はかばわなかった。
ウスバカゲロウを経歴書詐欺だと罵倒して、
「戦力外だ。もうこなくていい」と言い放った。
ウスバカゲロウは東京事業所をやめた。