その11 悪縁を絶つ
「悪縁を断つと、信夫さんと決めたとよ」
母が話した。
再婚して妊娠したそうだ。
僕の妹か弟になるはずだった。
二人共に異母・異父兄弟で苦労した。
産まないと決めたという。
僕は複雑だった。
姉をなくして、母は僕に幼児期は女性の着物を着せていた。
誰が見ても女性としか思えない顔だったらしい。
子供に与えた影響を知っているのだろうか?
僕は女性服に興味があり、大学を中退して、
ケンゾウのようにパリで修行したいと真剣に考えた。
映画を観るとファッションに注目してしまう。
ココ・シャネルのスタイル(モード)が好きだった。
日本のブランドでは「VAN」より「JUN」が好きで
アイビーやトラッドと真逆なコンチネンタルでおめかしした。
学生時代は青山まで歩いて行ける場所に住み、
青山通りを散歩して原宿にあった「レオン」でお茶するのが日課だった。
店はファッション業界のたまり場で、おしゃれの見せあいの場だった。
ヴィトンのバッグが好きで、よく見せびらかした。
色は薄いピンク色が好きで、部屋のブラインドや家具の色にした。
フィリップ・ロスの「さよならコロンバス」で、
女性は、男性の来た服や靴で男性を好きにも嫌いにもなると言う。
身分相応の妻が僕とつきあってくれたのは、
僕が六本木に住み、コンチネンタルファッションで中身をごまかしていたからかもしれない。