その3 東京に行くと早死にするばい
元旦の朝を迎えた。
母が二階から降りてきた。
「あけましておめでとう」とお互いに言って、
母が「朝は、なんば作ったとね?」と尋ねた。
「卵焼きたい」
僕は卵焼きを作って食べていて、コーヒーを飲んでいた。
「あんたは、信夫さんと違って料理ができるから。心配なか」
妻がなくなってから二人の娘の食事を
僕が作っていたのを母は知っていた。
料理は学生時代のアルバイトで覚えた。
「味噌汁飲むね?」と母が尋ねた。
「よかね。頼むバイ」
母の味噌汁は、いりこだしだ。僕はあごだし。
庭から青ネギを切ってきて味噌汁に加えた。
東京と大牟田の味噌汁の味は違いすぎる。
九州は麦味噌で甘い。
妻が「砂糖、入っている?」と聞いたのを思い出した。
新年を迎えて、僕は母に再度提案した。
「かあさん!東京にこんね」
母は3秒して
「東京に行くと早死にするばい。
ご近所さんも東京にいきなはったけど、すぐ戻ってきたとよ」と言う。
母は施設にも入りたくないと言う。
「ヨイヨイになったら別やけどね」と付け加えた。
大牟田には親戚はいない。
母は、いつ倒れるか不安だという。
母の悩みを解決するために、ワン切り連絡を提案した。
母が寝起きに毎日二回、僕の携帯にワンギリの電話をさせるのだ。