テルミの磁石
赤坂ムゲンに行ってみると、二組のカップルができていた。
そして残った女性は案の定だ。
オンワードと話していた女性が、突然に僕をみると「踊ろう」と言ってきて、
僕を踊り場に連れて行った。
そしてそれから僕から離れないのだ。
僕はオンワードに申し訳なく思った。
名前はテルミと言う。
二月八日
赤坂ムゲンは朝の四時頃に終わった。
始発電車を待つために喫茶店に六名で入った。
テルミは、会ったとたんに、僕から磁石のように離れない。初対面なのに。
恥も外聞もなく、僕の腕を離そうとしない。
オンワードから逃げる作戦にしては異常だ。
テルミの友人が言う。
「テルミ、どうしたのよ。いいかげんにしてよ。帰るわよ。 狂ったの?」
テルミは僕の腕にもたれて、友人を無視して席を立たない。
そのうち僕とテルミ以外は店からひきあげていった。
「このままずっと私、カンガルーの赤ちゃんでいたい」 とテルミが言った。
「俺は、カンガルーかい?」
「そう、カンガルーのポケットに入っていたい」
僕はレポートの締切もあり、眠いので帰りたかった。
「俺、帰るよ」
なかなか離そうとしなかったが、
なんとかテルミに電話番号を教えて帰宅させた。
テルミの異常接近は、おかしいと思った。
何か尋常じゃない。僕にどんな魅力があると言うのだ。
ゼミのレポートが、まだ終わっていなかった。
帰って一眠りしてから、レポートに集中した。
翌日の午前十一時まで、寝ないで、レポートを仕上げた。
提出期限ぎりぎりだった。
レポートを教授あてに投函して、ひと眠りした。
テルミの電話で起こされた。
電話で話していて、なぜ、テルミが僕に異常接近してきたかわかった。
テルミは短大生で、一か月後に卒業して、郷里に帰るからだった。
東京での良い思い出を作りたかったのだろう。
「いいよ」と言うと、上野に住むテレミは、すぐにやってきて、
僕の部屋にいついてしまった。
二月十四日
電話があって、リョウコが会いたいという。
女性からの電話だとわかると、いついていたテルミは、
「私は二番目がいいの」と言って、
焼きもちもやかずに帰っていった。