小百合通りの喫茶店「キューポラ」にて
一月十九日
突然リョウコが会いたいと言ってきた。
池袋で十四時に待ち合わせすると、リョウコが突然早稲田へ行きたいと言い出した。
早稲田大学文学部を案内して、小百合通りの喫茶店「キューポラ」に入った。
女優小百合は、西洋史学科に在籍していて、卒業論文のテーマは「アイスキュロスの『縛られたプロメテウス』におけるアテネの民主制について」であった。
文学部の正門前の道は、いつしか「小百合通り」と呼ばれていた。
喫茶店「キューポラ」は、文学部の正門付近にあった。
小百合ファンが、通学する女優小百合を見るために、
店の窓にくぎづけになっていた。
「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」が店内で流れていた。
「これ?ポールの歌?」
僕は頷いて、「長く曲がりくねった道を僕らは歩き続けて来たんだ。
ジョンよ、いつか戻るのを待っている。そんな感じかな?」
「そうなの。せつないわね」
「曲の録音にはジョンだけが参加してベースを弾いてくれた。
他のメンバーは参加しない。
ジョンさえいれば、ビートルズは存在したんだ。
ジョンが下手なベースなので、ポールが薄ら笑いを隠して歌っている箇所がある。
リンゴは、ポールに『ドラムは、こう叩くんだ』と言われ、
やってられないと、飛び出して。
『Back In The U.S.S.R.』は、ポールがドラムを叩いた。
ジョージは『ヘイジュード』で、ポールにギターを弾くのはやめろと言われ、
意地でも弾かなかった。
ジョンは、ポールの単独録音の多さに、頭に来ていて、スタジオに来て、ポールがいない、録音ができないと知ったジョンは、ぶち切れてポールの家に車で乗りつけた。
家に着くと、塀をよじ登り窓から部屋に侵入。
壁にかけてあったジョンが美大時代に描いて、ポールにあげた絵を引き剥がし、
キャンバスの真ん中に蹴りを入れ引き裂いてしまった。
ポールと妻リンダは、怒り狂うジョンを呆然と見ていたと言う」
「人間だもん。いつかは、別れるものよ」
「ビートルズファンは、いまだに、ブルーな気分だよ」