フィッツジェラルド
十二月八日、リョウコと会って十五時頃から二十時頃まで喫茶店で話す。
プロのロックバンドにいた話や女性遍歴、恋愛論、映画の話などを、
今日はリョウコが聞き役になってくれた。
まさに高校の頃のエズミのような友人関係になっていっている。
エズミはさかんに僕に迫ったが、リョウコはセックスに恐怖感をもっていて、
親友になってほしい、兄貴になってほしいという。
僕が好きな米国の作家はフィッツジェラルドとカポーティとヘミングウェイで、
三名の作家の話を始めた。
フィッツジェラルドの「華麗なるギャツビー」は、
おそらく米文学で一位の作品ではないだろうか。
編集者のマックス・パーキンズが関わっている。
ヘミングウェイもマックス・パーキンズが関わっている。
いかに編集者の役割が大切か話した。
「有名作家には、良い編集者がいるんだ。
三島由紀夫にも名編集者の坂本龍一の父・坂本一亀がいた。
ヘミングウェイ、フィッツジェラルドにもマックス・パーキンズという編集者がいた」
「そうなの?」とリョウコは驚いて尋ねた。
「編集者は困難に直面した作家を助け、弱い原稿に活力を与えて、
ベストセラーづくりの手助けをするんだ。
マックス・パーキンズは、題名も変えた。
『ウエスト・エッグのトマルキオ』より、
『グレート・ギャツビー』の方が響きがいいと言うんだ。
なぜグレート・ギャツビーかというと、
グレートを華麗なると訳したのは誤訳だと思っている。
華麗じゃない、一番近いのは『すごい』じゃないだろうか?
題名を変えることは大事だ。
映画『ローマの休日』も、最初の題名は『王女と無骨者』だった。
フィッツジェラルドは、二十世紀アメリカ文学を代表する作家と言われている。
死後に有名になる作家で、貧乏作家だった。
妻ゼルダは統合失調症の発作を起こし精神病院で療養する。
文豪の妻は普通じゃない。
夏目漱石の妻も、トルストイの妻もしかり、文豪を悩ませる。
それが作品の肥やしになるのだろう。
フィッツジェラルドの作品が売れなかったのは特異な文体で、
読みづらかったせいだ。
ヘミングウェイほどに人気はなかった。
入院中の妻と娘の養育のために、ハリウッドで脚本業を行うが、かんばしくなく、
アルコール依存症が悪化して、心臓麻痺で、四十四歳で亡くなるんだ」