バナナ・フィッシュ
リョウコは北海道出身で、大学の寮にいる。
同じ年齢だった。
寮の電話は当番制で学生が担当していた。
リョウコに電話して、いない場合は伝言ノートに書いてもらえる。
僕は、あれからリョウコと電話で話すことが多くなった。
二時間も話したことがある、話が合うのだ。
「私と違ったアメリカ文学が好きよね」
「そうかい。ぼくはひととおり、米国作家の代表作を読んでから判断するんだ。
高校の頃はフランス文学。ロジア文学もひととおり読んだよ」
「へえ〜。フランス文学ね。
何も浮かばない」
「だよね。ぼくは変人だから。
モーパッサンとフランソワーズ・サガンが好きだよ」
「そうなの。ところで米国作家で、誰が好きなの?」
「カポーティとサリンジャー。あとはヘミングウェイかな」
「ヘミングウェイは読んだ。サリンジャーはライ麦でつかまえてよね」
「ライ麦は普通だね。あれは本を朗読にしたような文章で。親しみやすいのだろう」
「そうなんだ。大ベストセラーよね」
「文体が掟破りで。口語体だから、どこの出版社も出版できないと言ってきた。
やっと出版できる会社があったが、会社は数名に読ませて反応をみてから、
反応が良かったから、出版した」
「そうなのね。掟破りなのね」
「ビートルズもそうだ。固定概念に凝り固まると陳腐になっていくんだ。
小説はこう書くべきとか、そんなことは決めてはいけないんだ」
「それで。サリンジャーで好きな作品は?」
「9つの物語だよ。衝撃だった。小説の革命を試みた英国作家バージニアウルフ
は革命に失敗したが、サリンジャーは9つの物語で、同じ革命を引き継いだ。
衝撃を与える作品を作ったんだ」
「バージニアウルフって?」
「映画で、ヴァージニア・ウルフはこわい、という映画があるよね。
夏目漱石も評価している。
ウルフは新しい小説を作ろうと考えた。
つまり意識の流れだけで小説を作る。ダロウェイ夫人という作品だけど。
読んでいてつまらなかった。サリンジャーは、見事に開花した。
とくにバナナ・フィッシュにうってつけの日は、なんども読んでいる。
すごい作品だ。数ページの短編だけど」