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ドコンチ
僕は、新宿信濃町の「高桑アパートメント」に住んでいた。
慶応大医学部の隣で、文学座にも近かった。
「高桑アパートメント」は、二階建てで、部屋が二十二あった。
僕は二階に住んでいた。
新聞でも紹介されたアパートメントだった。
「廊下はエンジと黒の市松模様、
壁はピンク、敷石はトルコ石のような深いブルーで、虚無感覚というか、
すごくいい昔の雰囲気」と書かれていた。
皇居まで距離にして一キロ弱、赤坂御用邸は徒歩五分。
皇族を近くに感じた。
10分もしないで青山で、
散歩がてら好きな表参道通りを歩き、原宿の喫茶店「レオン」に
入るのがひとつの僕のパターンだった。
富士山の湧き水を使ったコーヒーを味わい。
店はファッション業界人のたまり場で、東京一お洒落な人ばかり集まっていた。
僕も負けじとお洒落していた。
ファンションはトラッドでなくてドコンチだった。
コンチネンタルにドがつくほどのスタイルだ。