アトミのリョウコ
早稲田大学三年生の十月二十五日は朝七時に起きて、
門前仲町のたつみ倉庫でバイトをした。
大学の掲示板にあった仕事で、ネスカフェのギフトセットの箱詰め作業だった。
十六時に終わって、
大手町サンケイホールでの跡見学園女子大学のダンスパーティーへ出かけた。
僕はリョウコと出会った。
目鼻立ちがはっきりしていた。
リョウコは僕にいきなり話しかけた。
「いいこ、いた?」
「いたけど。相手にしてくれなかった。慶応じゃないからかな?」と僕はこたえた。
「そう、残念ね。ウチは慶応と、くっついていくのが多いから」
「そうなんだ」
「うちの大学は志木にあるんだけど。慶応の高校が志木にもあって、
古くから交流があるの。お互いに中学、高校と交流があるのよ」
「慶応ボーイの御用達女子大なんだ」
「まあ!ひどい。でもそうなのよ」
「大学はどこなの?」
「早稲田だよ」
「そう。慶応にみえるけど」
「ぼくも慶応に行きたかったが。親が猛反対したんだ」
「え?なぜ?」
「親は、慶応は不良の遊び人が行くところだと」
「まあ。偏見ね。誤解している。でも一理あるかも」
「クラブで踊るのが大好きで、毎晩踊りに出かけていて。
クラスメイトに、君は不良だと言われた」
リョウコは微笑んで言った。
「私は慶応より早稲田が好きよ」
「え! そうなんだ」
「君は踊らないのかい?」
「今日は後輩が変な不良にひっかからないように、お守りしているの」
「そうなんだ」
僕は、幼なじみのような親しみを覚え、リョウコと連絡先を交換した。