ビリー・ホリデイの持論
僕はジャズの勉強をした。
ジャズに楽譜はない。コードだけを自分の楽譜にメモした。
「ジャズとクラシックって、どう違うの?」ミドリが聞いてきた。
僕は早稲田大学の文学部付近にある喫茶「キューポラ」でミドリとお茶していた。
「毎回違うように演奏したり、歌うのが、ジャズだよ。
クラシックも解釈があり、テンポなんか遅くしたりするけど。
ジャズはその度合いを超えている。
ビリー・ホリディが語っている。
『人は皆、十人十色であるべきなの。
コピーなんかしてはいけない。
コピーには本当のフィーリングがあるわけがない。
この世の中に、二人の全く同じ人間が存在するわけがないの』
ある記者がビリーに尋ねた。『あなたは、いつも違った歌い方をしますね』
ビリーは答えた。『それは、違うのが当然でしょ』
記者が不思議になって聞いた『どうして?』
『え! 不思議ですか? 自然がそうなのです。私は自然ですから』とビリーは答えた。
『私達は過去の自分にすら、なることができないのに。
まして別人などになれるわけはない。
私は二晩続けて、ひとつの歌を同じように歌うことはできない。
ましてや二年、十年も経っては絶対無理。
もしそれができるようなら、それは音楽ではないと思う。
それは機械か練習か、ヨーデルか、ともかく音楽というものではない』とね」