胸突坂のホタル
学生生活は自炊と共に始まった。
洗濯は屋上に共同の洗濯機があり屋上に干した。
屋上の景色は森と高速道路が交互に並んでいて、
渋滞している車が同じ位置に見えた。
毎朝日本一の教会の鐘で目を覚まし、
朝は簡単にフランスパンとスクランブルエッグで済ませた。
たまにガーリックトーストにすることもあった。
目白通りを渡り、和敬塾のある路地に入り、古びた洋館をみながら、
胸突坂という急坂を下りて、
松尾芭蕉庵を左に見ながら神田川を渡り大学へ通った。
昼食は好物のカレーライスを大隈講堂近くの学食で食べた。
早稲田はマンモス大学だから学食だけでもいくつかある。
おそらく五つあったと記憶する。
帰りが夜になると、胸突坂は街灯も少なく人気がなくて、不気味な場所となる。
初夏にはホタルが飛んできた。まるで妖精のように思えた。
椿山荘のホタル祭りで放たれたのが迷子になったのだ。
部屋の真向かいの丸谷氏と親しくなった。
松江北高出身で、早稲田ゼミナールに通っていた。
イタリアのファッション雑誌「ルオモ」から飛び出してきそうな、
男性イタリア人のような顔をしていた。長髪が似合っていた。
丸谷氏が玄米のチャーハンを好んで食べていて、影響を受けた。