ノルウェーの森
「どこのクラブに入ったの?」とナオコが尋ねた。
「クラブは、二つ入ろうと思った。映画とロック。
松原中学の時は文化祭で歌った。
大牟田北高校でも、予餞会よせんかいで歌った」と僕は答えた。
「よせんかい?」
「卒業を控えた最終学年の生徒を送り出す目的で開催される学校行事だよ」
「へえ〜。何を歌ったの?」
「ビートルズのミッシェルだよ」
「私も、ギターで、よくビートルズを歌った」
「何を歌った?」
「よく歌ったのは『ノルウェーの森』」
「いつか聴きたいな」
「そうね」
「ビートルズの『ノルウェーの森』は、ナンパに失敗した歌だよ」
「へぇー そうなの」
「有名な話だけど、この歌の英語タイトルは『Norwegian Wood』で、
本当はノルウェーの家具。
誤訳なのか洒落で訳したかわからないが、家具を森と訳した 」
「わざとじゃないの?」
「よくビートルズが、やるな」
「たとえば?」
「そうだな。ジョージ・ハリスンとエリック・クラプトンがタイトルで悩んでいた。
歌詞に、ジョージが『ブリッジ』って、書いていたんだが、
クラプトンが『バッジ』と、読み間違えたんだ。
すると、隣にいたリンゴが『バッチってなんだ?』と言った。
それを二人は聞いて、タイトルを 『バッヂ』にしたとか」
「へえ~。 そうなんだ。 『ブリッジ』って何?」
「一般的な曲の構成は A、B、C で、Cがサビなんだ。
サビは、Cメロと言ったりする。A、Bは、AメロBメロでもいいが。
まぁ一般的にはAをVerse。BはBridgeと呼ぶんだ」
「さすがね。それで、『ノルウェーの森』は、どんな歌詞なの?」
「『ノルウェーの森』は、ジョンがナンパに失敗する歌なんだ。
ナンパした女性に拒絶されたうえ、彼女の家に置いてけぼりにされたので、
腹いせに暖炉に火をくべて、
彼女のお気に入りのノルウェー製家具を燃やしてしまうのさ」
三秒ほど沈黙の後に、ナオコが言った。
「それは。私が置いてきぼりにされたのよ。ねえ!そうじゃない?」
「早稲田グラスオニオン」 下書き 幻冬舎「北高フェイドアウト」の前