球根栽培
「大学は、荒れていたよ。
キャンパスは、ヘルメットを被ってタオルで顔を隠し、
鉄パイプを持った集団がデモ行進したり、
大学の建物を占拠してバリゲードして、警察に投石する。
流血事件も突然起こるんだ。
内ゲバが突然起こった。
学生同士がキャンパスで、追いかけっこがはじめるんだ。
捕まると、鉄パイプで数名が一人を半死に近くなるまで殴打する。
一人殺された事件も過去にある。新聞で読んだ。
可愛い女性がヘルメットをかぶりバリケードを張り、
『ここは危ないから』と、僕らを誘導するんだ。
僕には別の人種集団だと思ったよ」
「イチゴ白書の世界ね」
「球根栽培って、知っている?」
「イチゴの栽培?」
「いや。火炎瓶や時限爆弾や改造拳銃を作る隠語だよ。
球根を栽培するって言うんだ」
「ゲリラ?」
僕は頷くと、「だから。入学式は、箱根のホテルだった」
「そうなの?」
「講堂が、暴力団のような学生で封鎖されたんだ」
「いわゆるロックアウトね」
「それで、初めてロマンスカーに乗って、ホテルで宿泊の入学式。
ホールに集まって、お茶の水博士みたいな爺さんのピアノ演奏で校歌斉唱したんだ。
おそらく学長じゃないと思うけど」
「私、まだロマンスカーに乗っていないわ。いいわね」
「でも、わざわざ、箱根で、やる必要はないよ」