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ピアノ弾き語り〜屈辱の夜
客が帰ると、店はしーんと静まりかえり、カウンターに戻って、
マスターと閉店まで話し込んだ。
「今日は俺の家に泊まれよ。
もう電車もないだろう」とマスターが言った。
タクシーで牛込町にあるマンションへ泊まった。
毛布を借りてソファで寝た。
夜明けごろだ。
下半身の異常で目をさました。
マスターの指が何か作業をしている。
僕は「やめろって」、心で叫んでいるが声にならない。
電車の中で痴漢にあう女性が黙っている気持ちが理解できた。
何か鳥肌が立ってきて、黙って手をふりほどいた。
マスターが言った。
「ごめんよ。俺って女性も好きだけど、男にも興味があるんだ」
黙って何も言わず、服を着てマンションを出た。
男にも襲われることがあると初めて知った。
これでピアノの弾き語りの仕事はなくなった。