ビートルズのヒットの秘密。それは、彼らが「歌詞を繰り返す勇気」を持っていたことにある
ビートルズのヒットの秘密。それは、彼らが「歌詞を繰り返す勇気」を持っていたことにあると、私は思う。
当時のポップスやフォークソングの世界では、歌詞は一番・二番・三番と、ストーリーを追うように少しずつ展開していくのが常識だった。一度使ったフレーズを何度も繰り返すことは、手抜きだとか、芸がないとみなされる風潮さえあった。だがビートルズはその慣習を壊した。
彼らは、「言葉は繰り返してこそ心に残る」ということを、本能的に、あるいは戦略的に理解していたのだろう。
たとえば “Life is very short” と何度も繰り返すことで、人生の儚さが胸に刺さってくる。“We can work it out”――「きっとうまくいくさ」と何度も言われると、それはただの希望ではなく、祈りのように聞こえてくる。“You’re gonna lose that girl” の繰り返しは、警告にも、皮肉にも、哀しみにも変わる。そして “She loves you, yeah, yeah, yeah”――このフレーズが繰り返されるたび、歌は重力を失い、聴く者の心を浮かせてしまう。
彼らはストーリーの流れにこだわらなかった。むしろ、「気に入った言葉が見つかったら、それを何度もくりかえすんだ」という姿勢で楽曲を構成した。そこには、言葉を言葉以上のものにする力があった。
そんな「繰り返しの力」を、最近ふと思い出させてくれたのが、所ジョージさんの一節だった。
彼のある曲の中で、こう歌われる――「二番は、できてない。三番は、できている」。
このフレーズには脱帽した。言葉の意味だけでなく、その配置と間の抜け具合に、不思議な説得力がある。何も語っていないようで、すべてを語っている。「作詞とは何か?」という問いに対して、型破りな、それでいて本質を突いた答えのようにも聞こえた。
歌詞における「繰り返し」や「未完成」は、時に完成された美しさを超える。それを最初に世界に示したのがビートルズだったとすれば、それに今なお反応し、独自の形で表現する人がいることもまた、音楽の系譜の豊かさを証明している。
ビートルズが壊した「構造」は、決して破壊ではなく、解放だったのだ。