目撃 ヴィオロンの妻第三章の一
十二月二十六日、午前零時になろうとしていた。
明治通り沿いにある自宅マンション周りを
見知らぬ男と恋人のように、
腕を組んで一周二周している。
一階の正面入口にあるマンションゲストルームの窓からのぞいていた僕に気づくと、
二人はあっというまに離れて、妻はマンションの裏口の門から入ってしまった。
あっけにとられた僕は、妻から離れて逃げるように去っていく男を追いかけた。
男の進行をさえぎって、顔をじっと見た。
男は黙って立ち止まって視線を合わせない下を向いていた。
会った覚えのある顔か判断しようとした。見覚えはなかった。
男は酔っているように思えた。
泥酔に近かった。
僕らはなにも言葉を交わさなかった。
初めての経験でどうしていいかわからなかった。
沈黙状態は十秒も続いただろうか、僕は自宅へ戻った。
近くのエレベイターで七階の部屋に戻った。
僕は妻を探すと、妻はパウダールームにいた。
妻に「一階の入り口近くの応接室で待っている」と伝えた。
僕は先に一階の第三応接室まで行ってソファーに座った。
わけもわからずにいきなり人に殴られた気分だった。
どう妻に切り出すべきか、自問自答していた。
結論は出た。覚悟を決めた。
妻が十分もしないでやってきた。
いつもは平気で一時間でも待たせる。
早くやってきた妻の行動に、僕は別の妻を見るようだった。