ノルウェイの森~お別れは握手でなくてS
小説「ノルウェイの森」の最後の方で主人公が、
レイコさんと初めてSして別れる場面がある。
経験があるので、普通に理解できたが、
非難や疑問だと言う人が数多い。
これが「ノルウェイの森」がアダルト小説だと言われる理由のひとつのようだ。
そして女性に多い批判は、
直子がいて、緑がいるのに、主人公の行為がわからないと言う。
なるほど、そういう考えもあるのだと勉強になった。
日本で一番売れた小説「ノルウェイの森」について、
僕的な解釈で話しをさせてもらうと
主人公ワタナベトオルには高校時代に唯一の親友キズキがいる。
そして直子、彼女はキズキの恋人であり、
主人公もキズキを通して直子と親しくなり好意を持っていた。
キズキは自殺してしまった。
大学に進学した主人公は直子と再会してSしてしまう。
ここからミケランジェロ・アントニオーニの映画「情事(1960)」
と同じような愛の不毛に陥る。
映画「情事」では女性2名、
アンナとクラウディアとサンドロ(男)の三角関係で、
男とアンナが恋人同士だ。
3人が旅行した先でアンナが失踪してしまった。
二人はアンナを探すうちにSしてしまう。
アンナは完全に行方不明となり、
二人は常にアンナの影を背負ったままの愛しかたをする。
ある夜、酔った男は見知らぬ女を抱いた。
不安の一夜を明かしたクラウディアは
そんな男の姿を発見して絶望する。
しかしサンドロの方もその気持は同じだったにちがいない。
他の人とSする気持ちが理解できたのだ。
男が戸外のベンチで泣いていると、
その肩をうしろから、おいかけてきて、
そっと抱いたのはクラウディアであった。
* *
この一人の影におびえる喪失感がただようSは、
直子の方に痛烈にある。
直子は言う。
「私はあなたが考えているよりずっと深く混乱しているのよ。
どうして私を放っておいてくれなかったのよ」
キズキの影から逃れられないのだ。
僕なら直子とはSしない、そんな気にならないからだ。
しかしトオルは直子とSして恋愛をしていこうと思う。
もうそこで僕的には、これは危ういと思った。
直子は精神的に病んでしまい、精神病院に似た施設「阿美寮」に入る。
ここは映画「17歳のカルテ(1999)」のような施設だ。
そこで直子と同室の40歳代のレイコさんと知り合う。
直子の見舞いに通うごとにレイコさんとも親しくなっていく。
レイコさんはかつてピアニストを目指していたが挫折し、
3回にわたって精神病院に入院。
「阿美寮」には8年間入所しており、患者たちにピアノを教えている。
ギターも得意であり、横浜に別れた夫と長女がいる。
このレイコさんとの交流を読んでいて、
僕は直子よりレイコさんに魅力を感じた。
そして直子が自殺する。
トオルは小説の冒頭で嘆く。
直子は言った。
「私のことをいつまでも忘れないで。
私が存在していたことを覚えていて」と。
そう考えると僕はたまらなく 哀しい。
何故なら直子は僕のことを愛してさえいなかったからだ。
このトオルの嘆きは一度愛した女性を亡くした僕に深く共感を与え、
この一文に惹かれて、「ノルウェイの森」という小説が好きになりました。
直子はレイコさんに自分の服を全部あげると遺言していた。
直子の服を着たレイコさんをみて、トオルは嬉しかった。
2人だけで、直子の葬式を行うことにする。
お葬式は楽しい思い出にするために、レイコさんはギターを弾いた。
そして 「ねえ、ワタナベ君、私とあれやろうよ」
「不思議ですね。僕も同じこと考えてたんです」
そしてお別れのSを行う。
この場面は、映画「おもいでの夏(1971)」がかぶります。
映画「おもいでの夏」はドロシーという夫のいる年上の女性に
恋焦がれる少年ハーミーの話し。
ドロシーの夫が戦死する。
そんな悲しさをまぎらわすために、ドロシーは少年を夕食に招く。
少年は盛装してドロシーの家を訪れた。
するといつも夫婦が聞いていた曲が流れていて、
テーブルの上には夫の戦死を知らせる電文があった。
じっと立ちつくした少年の前に、泣きはらした顔のドロシーがいた。
彼女は少年を踊りに誘い込んだ。
少年はただ黙って誘われるままに踊った。
ドロシーは少年の胸に顔を埋め、とめどない涙を頬に伝わらせた。
踊りながらベッドに誘うドロシーの悲しみを、
少年には理解することができなかった。
ドロシーのベッドで朝を迎えた少年は、
置手紙を読んだ。
「昨夜のことは、あなたがおとなになった時、
きっと理解してくれると思います。
私は実家に帰ります」
喪失感を埋めるためのSがあるんだと、
それには男女の差はないと僕は思った。
さて横道したがノルウェイの森、
Sを終えた後のレイコさんの言葉。
「私もう一生これ、やんなくていいわよね?ねえ、
そう言ってよ、お願い。
残りの人生のぶんは、もう全部やっちゃったから安心しなさいって」
レイコさんが北海道に旅立つ日に、トオルは上野駅まで送って行きます。
レイコさんは言います。
「私のこと忘れないでね」、
「あなたと会うことは二度とないかもしれないけれど、
私どこに行ってもあなたと直子のこといつまでも覚えているわよ」、
トオルがレイコさんの顔を見たら、彼女は泣いていた。
最後にレイコさんはトオルに「幸せになりなさい」、
「私、あなたに忠告できることは全部忠告しちゃったから、
これ以上もう何も言えないのよ。
幸せになりなさいとか。
私のぶんと直子のぶんをあわせたくらい幸せになりなさい、としかね」
このレイコさんとのお別れのSには、次のような非難もあります。
一回こっきりのお別れの挨拶のようです。
お別れの挨拶なんかで肉体関係を結んでほしくはないのです。
それにしてもこの小説は男女関係がとても乱れていますね。
そこのところが私にはよく理解できません。
「ノルウェイの森」を嫌いな方が実に多い。
僕の好きな映画「愛しのローズマリー」で
ジャック・ブラックがお別れにお情けのセックスをすると言います。
無宗教の日本人だけかと思ってましたのでアメリカ人でもあるんだと驚きました。
お別れに握手でなくてSして別れたくなる。
お互いにそう思う。
一番の思い出になるのは握手でもキスでもない、
最高の男女の思い出はSになることもあるんです。
女性は一度Sした男のことは忘れないそうですね。
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横道
映画「ノルウェイの森」はベトナム人監督で作られて、
原作とは違った作品になっています。