岡本太郎氏の母についての断章
結婚後に愛した最初の男、堀切重夫
投書家で、歌人かの子のファンだった。
かの子は夫(一平)に、うちあけた。
夫は「そんなに好きになった男なら、
手許へつれてくれば
いいだろう」
それで重夫は一平の家に同居する。
長男太郎は白い目でにらみつけたそうだ。
重夫は結核で死ぬ。
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二人目の男、仁田(仮名)を
家に連れ帰り、返さない。
仁田は医者でかの子を治療した。
かの子は仁田を気に入り
夫へ「パパ 病院で西洋蝋燭のような男みつけたのよ。
ね、もらってきて、
すぐもらってきて、いいでしょ」
入院中仁田を離さない。
退院後は恋文を送りつづけた。
一度かの子の元に行くと、
かの子は仁田を帰さなかった。
仁田はかの子との別離は考えられなくなり、愛しあった以上、
人妻との不倫の恋におちた形はいやだと思った。
「奥さんを下さい、僕は奥さんと正式に結婚します」
夫「かの子を僕から奪わないでくれ。
僕らはいわゆる夫婦生活はしていないけれど、
僕にとってはかの子は生活の支柱だ。いのちだ。」
そして共同生活がはじまる。
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かの子の才能を惜しむ、川端康成、林房雄
「困ったよ、今死なれたのでは、全く困るよ」
「うん 困ったね」
「これからなんだから」
「もう一息のところだった」
「五年でのいい、五年経てば森鴎外、漱石級だといった予言もりっぱに立証されたんだがなあ」
「このままでは、人は巨大な未完成品と思うかもしれない」
「だから困るよ。全くかけがえのない偉さと可能性を持っている人なのだ」
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瀬戸内さんで素晴らしいと思った文章
どんな話からほぐれていったか、それからものの5分もたつと、
仁田氏はもうすっかり心の垣根をとり、何かに憑かれたように
次から次へかの子の思い出を話しだしてくれていた。
私は、こういう時にいつも感じる全身の細胞がはりさけそうな緊張感と、
わきたってくる喜びをおさえつけながら、一語一句も聞きのがすまいと
目と耳で、語り手をみまもっていた。
かの子が語らせているのだと、聞きながら私は思った。
仁田氏も今、それを感じていることが私にはわかった。
私の目から鱗が一枚一枚はぎとられるように、真相の輪郭が明らかにされていく。