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夏目漱石 三四郎 ミネコ登場
夏目漱石 三四郎 みねこ登場
女とは京都からの相乗りである。
乗った時から三四郎の目についた。
第一色が黒い。
三四郎は九州から山陽線に移って、
だんだん京大阪へ近づいて来るうちに、
女の色が次第に白くなるので
いつのまにか故郷を遠のくような哀れを感じていた。
それでこの女が車室にはいって来た時は、
なんとなく異性の味方を得た心持ちがした。
この女の色は
じっさい九州色であった。
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里見美禰子 さとみ みねこ 登場
英語教師広田の引越しの手伝いに行く三四郎
椽側へ腰をかけた。
かけて二分もしたかと思うと、
庭木戸がすうとあいた。
そうして思いもよらぬ池の女が庭の中にあらわれた。
二方は生垣いけがきで仕切ってある。
四角な庭は十坪に足りない。
三四郎はこの狭い囲いの中に立った池の女を見るやいなや、たちまち悟った。
――花は必ず剪きって、瓶裏へいりにながむべきものである。
この時三四郎の腰は椽側を離れた。
女は折戸を離れた。
「失礼でございますが……」