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改題「グラス・オニオン」 第一章 雨の中の庭
沙樹子がケイコにたずねた。
「資料は、どこまで揃った?」
「ナレオ と 銀座ナウ ですね」
「ありがとう。目を通すわ」
「浮かない顔ですね」
「タイトルで、悩んでいるの。
マモルの手記は、アンネフランクの名言で始まるだけだし」
「英次さん、村上のノルウェイの森に、こだわりますね」
「もともと、村上さんは『雨の中の庭』で書いていたのよ。
どうもしっくりこないで、奥さんに聞いてみたら、
『ノルウェイの森』がいいと提案されたらしい」
近くにいた社長秘書が聞いていて、
「え! そうなんですか?」
ケイコが頷いて、付け加える。
「小説の第一章で、主人公が飛行機に乗っていて・・・・」
ノルウェイの森の第一章を語る。
「やれやれ、またドイツか、と僕は思った。
飛行機が着地を完了すると禁煙のサインが消え、
天井のスピーカーから小さな音でBGMが流れはじめた。
それはどこかのオーケストラが甘く演奏する
ビートルズの 『ノルウェイの森』だった。
そしてそのメロディーはいつものように僕を混乱させた。
いや、いつもとは比べものにならないくらい激しく僕を混乱させ揺り動かした」