世界一になった日本映画
ごきげんよう! サーキーの映画の時間です。
東京物語
世界一になった日本映画です。
ラストを描写
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## **東京物語**
夏の終わり、薄曇りの空の下、尾道の町は静かに息づいていた。潮風がゆるやかに家々の瓦をなで、遠くから船の汽笛がかすかに聞こえる。
周吉は古びた家の座敷にぽつんと座り、手元のうちわを静かに扇いでいた。畳の上に落ちる陽の光は柔らかく、時折風が障子をそっと揺らすたびに、亡き妻の声が聞こえてくるような気がした。
「お父さん、座布団が曲がっていますよ」
そんな日常の些細な注意も、もう戻ってこない。
妻の葬儀を終えたばかりの家は、かつての喧騒が嘘のようにひっそりと静まり返っている。子どもたちはみな都会に戻り、慌ただしい数日の間に立ち上る人の温もりが、今や幻のように感じられた。
隣の奥さんが庭先から声をかけてきた。「皆さん、お帰りになって、淋しくなりましたなあ。ほんとに急のことでしたなあ」
周吉はうなずきながら振り返り、微かな微笑みを浮かべる。「やあ、ほんとに…気のきかん奴でしたが、こんなことなら、生きとるうちにもっとやさしくしてあげたらよかったと思いますよ」
彼の声には、深い後悔と孤独がにじんでいた。語りながら、周吉は視線を膝の上に落とす。
「一人になると、急に日が長うなりますわい」とつぶやく声には、時間がまるで重さを持つかのような感覚が含まれている。それでも、彼の口元にはわずかな穏やかさが宿っていた。どこか諦めにも似た、時間がすべてを癒すという確信のようなものが漂う。
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再び一人になった座敷で、周吉は黙って海を思い浮かべていた。尾道の海はいつもと変わらず、潮の満ち引きとともに静かに時を刻んでいるに違いない。亡き妻のいない日々はこれからも続く。それでも、終わりのない時間の流れを受け入れる覚悟が彼にはあった。
やがて映画音楽が静かに流れ始める。情感豊かな旋律が彼の思いと重なり合い、観客の心に深く響いていく。映像はゆっくりと尾道の海に切り替わり、青い海面をゆく船が姿を現す。汽笛の音が彼方から響き、音楽のクライマックスとともに風景は広がり、無常を描き出す。
観客は誰もが感じる。いつか必ず訪れる別れの時、その準備をすることの大切さを。今日の幸福に感謝しつつ、それが永遠ではないことを受け入れる心構えを。
映画は静かに幕を下ろす。周吉の後ろ姿とともに、尾道の風景が淡く遠のいていく。観客の胸には、人生の儚さとともに、それを愛おしむ気持ちがそっと宿るのだった。
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英国映画協会が2012年に発行の「サイト・アンド・サウンド」誌
「映画監督が選ぶベスト映画」で1位に選ばれた。
世界の映画監督358人が、投票で決めた。
「世界の映画批評家が選ぶベスト映画」でも3位です。
「東京物語」のラストシーン、
明日は我が身を世界中の観た人が、感じたかもしれない。
妻を亡くした周吉は、うちわを扇ぎながら一人で家にすわっていると、
隣の奥さんが
「皆さんお帰りになって、淋しくなりましたなあ。ほんとに急のことでしたなあ」と挨拶。
「やあ、気のきかん奴でしたが、こんなことなら、
生きとるうちにもっとやさしくしてあげたらよかったと思いますよ。
一人になると、急に日が長うなりますわい」と、語る。
*
周吉は一人でうちわを扇ぎながらすわっている。
映画音楽が流れ始めて、尾道の海が映し出され、
音楽の高まりとともに、船が走る音と別の船の汽笛が鳴り響いていく。
必ず別れがやってくる、心の準備をしておこう。