表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/472

世界一になった日本映画

ごきげんよう! サーキーの映画の時間です。


東京物語

世界一になった日本映画です。

ラストを描写

---


## **東京物語**


夏の終わり、薄曇りの空の下、尾道の町は静かに息づいていた。潮風がゆるやかに家々の瓦をなで、遠くから船の汽笛がかすかに聞こえる。


周吉は古びた家の座敷にぽつんと座り、手元のうちわを静かに扇いでいた。畳の上に落ちる陽の光は柔らかく、時折風が障子をそっと揺らすたびに、亡き妻の声が聞こえてくるような気がした。


「お父さん、座布団が曲がっていますよ」


そんな日常の些細な注意も、もう戻ってこない。


妻の葬儀を終えたばかりの家は、かつての喧騒が嘘のようにひっそりと静まり返っている。子どもたちはみな都会に戻り、慌ただしい数日の間に立ち上る人の温もりが、今や幻のように感じられた。


隣の奥さんが庭先から声をかけてきた。「皆さん、お帰りになって、淋しくなりましたなあ。ほんとに急のことでしたなあ」


周吉はうなずきながら振り返り、微かな微笑みを浮かべる。「やあ、ほんとに…気のきかん奴でしたが、こんなことなら、生きとるうちにもっとやさしくしてあげたらよかったと思いますよ」


彼の声には、深い後悔と孤独がにじんでいた。語りながら、周吉は視線を膝の上に落とす。


「一人になると、急に日が長うなりますわい」とつぶやく声には、時間がまるで重さを持つかのような感覚が含まれている。それでも、彼の口元にはわずかな穏やかさが宿っていた。どこか諦めにも似た、時間がすべてを癒すという確信のようなものが漂う。


*****


再び一人になった座敷で、周吉は黙って海を思い浮かべていた。尾道の海はいつもと変わらず、潮の満ち引きとともに静かに時を刻んでいるに違いない。亡き妻のいない日々はこれからも続く。それでも、終わりのない時間の流れを受け入れる覚悟が彼にはあった。


やがて映画音楽が静かに流れ始める。情感豊かな旋律が彼の思いと重なり合い、観客の心に深く響いていく。映像はゆっくりと尾道の海に切り替わり、青い海面をゆく船が姿を現す。汽笛の音が彼方から響き、音楽のクライマックスとともに風景は広がり、無常を描き出す。


観客は誰もが感じる。いつか必ず訪れる別れの時、その準備をすることの大切さを。今日の幸福に感謝しつつ、それが永遠ではないことを受け入れる心構えを。


映画は静かに幕を下ろす。周吉の後ろ姿とともに、尾道の風景が淡く遠のいていく。観客の胸には、人生の儚さとともに、それを愛おしむ気持ちがそっと宿るのだった。


---


英国映画協会が2012年に発行の「サイト・アンド・サウンド」誌


「映画監督が選ぶベスト映画」で1位に選ばれた。


世界の映画監督358人が、投票で決めた。


「世界の映画批評家が選ぶベスト映画」でも3位です。


「東京物語」のラストシーン、

明日は我が身を世界中の観た人が、感じたかもしれない。


妻を亡くした周吉は、うちわを扇ぎながら一人で家にすわっていると、

隣の奥さんが

「皆さんお帰りになって、淋しくなりましたなあ。ほんとに急のことでしたなあ」と挨拶。

「やあ、気のきかん奴でしたが、こんなことなら、

生きとるうちにもっとやさしくしてあげたらよかったと思いますよ。

一人になると、急に日が長うなりますわい」と、語る。



周吉は一人でうちわを扇ぎながらすわっている。

映画音楽が流れ始めて、尾道の海が映し出され、

音楽の高まりとともに、船が走る音と別の船の汽笛が鳴り響いていく。

必ず別れがやってくる、心の準備をしておこう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ