怪我した女子高生との出会い
水原はいつものように、トラックを運転していた。
秋の日差しはきつくなく、自分を包みこんでくれるようだった。
稲穂は黄金色の絨毯のようで、赤トンボが招かれたように、跳んでいる。
窓を開けると、やんわりと柔らかい風が流れ込んでくる。
日差しの暖かい香りに、鼻をくんと鳴らし歌を口ずさもうとしたその途端。
「…ん? あれは…」
時刻を確認すると、16時だった。
水原はとっくに荷物を運び終えたので、帰るのみなのだが、道路の端にトラックを停める。
「ーどうした?」
声をかけると、制服姿の女の子、おそらく女子高生だろう。
びっくりしたような顔で、猫みたいに瞳を丸くする。
「え、あ、あの…」
どうしたらいいのか、困っているらしかった。
それは水原も同じだが、何か異常なものを感じ、トラックから降りる。
すると女子高生はびくりと肩を揺らしたが、水原は安心させるように言う。
「ちょっと気になってな。すぐ終わるから」
そう言って、女子高生の全身を素早く見ると、膝から血が流れていた。
そういえば足を引きずっている感じだったなと思い、しゃがみ込む。
「これ、どうしたんだ? 血が出ているぞ」
「その…。転んで…」
女子高生は水原が怖いのか、それとも警戒しているのか、か細い声だった。
水原は気にせず、「そうか」と呟くと、トラックに戻る。
助手席に置いたトートバッグの中をあさると、今、必要なものを取り出す。
「ーほら、絆創膏」
「え…」
「本当は綺麗に洗って、消毒したほうがいいんだけど…。学校に戻るのも大変だろう?」
「それはそうですけど…。あの、お気になさらず」
女子高生は関わりたくないのか、俯く。
水原はそんなに怖い顔をしているか、俺と思うのだが、ここで見捨てたら、女子高生が傷みを抱えたままだと考え直し、伝える。
「家の近くまで乗せていってやる。自転車をかせ」
「え…。あ、あの!! いいです」
「いいから。とって食わねえよ。それに襲ったりなんかしねえよ。困った人がいたら助けるのが、俺のモットーだ」
そう言うと、彼女に絆創膏を渡し、自転車を奪い取る。
トラックの荷台は空なので、自転車を収納すると、女子高生はぼんやりと眺めているだった。
「おい、手当てしろって。ぼうっとするな」
「で、でもあの!! その!! 悪いです」
「何が…? よく分かんねえけど、とりあえず、しょうがねえな」
水原は舌打ちすると、女子高生から絆創膏を奪い、膝に貼りつけてやる。
赤くなっているが、骨折や捻挫はしていないだろうと判断する。
「ーほら。助手席に座って」
「あ…。ど、どうしよう」
「どうしようも何も、人の善意は受け取っておけ。早く」
手招きすると、女子高生がゆっくり近づいてくる。
自転車をとられているので、逃げられないとでも思ったのだろうか。
「す、すみません…。お世話になります」
「はい、素直てよろしい。トートバッグはよけてな」
水原がそう言うと、女子高生は遠慮しながら乗ってくる。
その際、足が痛んだのか、苦痛の表情となる。
「病院に行かなくて大丈夫か?」
「び、病院…!? そ、それはちょっと…。大丈夫です!! まだ若いので、すぐに治ります」
「こら怪我を甘くみるな。どんな結果になるか、分からないんだから。家に着いたら、ちゃんと手当てしろよ」
少し怒った風に言うと、女子高生はしゅんとし、「ごめんなさい」と呟く、
水原はうなずくと、意識して明るく言う。
「よし、走らせるぞ」
水原はエンジンをかけると、トラックを動かし始める。女子高生はちゃんとシートベルトをしており、珍しそうにきょろきょろする。
「どうした?」
「いや、あの、車高があるので、家の車と見る高さが違うなと思って…」
「あ…。なるほど。確かにな」
水原はうなずくと、女子高生に聞く。
「家はどの辺りだ? ここから近いのか?」
「家から学校まで、自転車で30分です。だから、その、近くのコンビニで降ろしてくれるとありがたいんですが…」
「しっかり喋れるんじゃねえか」
褒めると、女子高生は頬を赤くし、膝に乗せた手を握りしめる。
「近くのコンビニな。よっしゃ、任せろ」
アクセルを踏み込むと、水原は正面を眺めていく。
県外ナンバーがおり、秋の味覚でも買い求めに来たのだろうかと妄想を膨らませる。
「あ、あの…!!」
「何だ? どうした?」
「お礼はどうすればいいでしょぅか?」
「お礼? そんなものはどうでもいい」
水原はそっけなく答える。
正直に言うと、本気でそう思っていた。
それよりもまだ若い子が痛がっている姿のほうが、見ていて辛い。
ー俺もお人好しだな。
そう思いつつ、運転していると、コンビニが見えてくる。
「あそこか?」
「は、はい!! あそこです!!」
女子高生が嬉しそうに声をあげたので、水原はコンビニに入ろうと、ウィンカーを出す。
駐車場の広いコンビニなので、トラック仲間の横につけさせてもらい、トラックから降りる、
女子高生も膝を庇いながら降り、静かにドアを閉める。
「はい、自転車」
「あ、ありがとうございます!!」
ようやく笑顔になったので、水原は自分も柔らかな表情となる。
「じゃあ、俺は行くから。ちゃんと手当てしろよ」
忠告してトラックに乗り込もうとすると、女子高生がとめてくる。
「やっぱりお礼をします…!! 飲み物でいいですか?」
「いいって。いらねえよ。それに、親の金だろう? 大事に使え」
「大丈夫です。自分のお小遣いなので。ちょっと待っててくださいね」
女子高生は自転車をそのままにし、店内へ入っていく。
水原は姿を追いかけると、女子高生が飲み物のコーナーにまっすぐ行き、レジに行くのを見届ける。
何を買ったんだろうと思っていると、女子高生が戻って来て、差し出してくる。
「ーはい。冷えたお茶ですけど、どうぞ」
「いいのか? 本当にもらって」
「いいんですよ。もらってください」
女子高生の好意に甘えることにし、水原は冷たいお茶を手にする。
ー今時、珍しい娘だな。
もっとわがままかと思ったが、両親の育て方がいいんだろう。
助けて良かったと納得すると、もらったばかりのお茶を助手席に入れる。
「ありがとうな。…何か悪いな」
「いいんですよ。それと、あの、スマホを持ってますか?」
「持っているけど…どうした?」
「LINE交換をしませんか?」
「ああ、なるほど」
水原はまた助手席を開けると、トートバッグの中から、スマホを取り出す。
「よく分からねえから、登録してくれるか?」
スマホを差し出すと、女子高生は嬉しそうにスマホを預かる。
それから慣れた手つきで操作すると、スマホを戻してくる、
「良かったら、LINEしてください」
「分かった。サンキューな」
水原は女子高生と縁ができたことに内心、喜び、スマホを大事にしまう。
「じゃあ、俺は行くから。ありがうな」
「は、はい…!! こちらこそ、ありがとうございました!!」
深く頭を下げてきたので、水原は手を上げて、運転席に行く。
シートベルトをすると、トラックのエンジンをかける。
女子高生を見れば、こちらに手を振ってきている。
ー可愛いな。まだ怖いものを知らない年齢だからな。
人生まだまだだと思いつつ、学校生活をエンジョイして欲しかった。
クラクションを軽く鳴らすと、水原は駐車場から出ようとする。
女子高生はずっと見ていてくれているようで、少し恥ずかしいというか、むずがゆい気持ちになる。
ーまた会えるといいな。
そう思い、水原はコンビニから離れたのだった。




