声がしない
今日は病院に泊まりなさい、と担任が言った。
空いている簡易ベッドに、毛布が一枚。
横になる。
天井が白い。
廊下を、台車の音が通り過ぎる。
遠くで、機械が鳴っている。
眠れなかった。
目を閉じても、暗くならない。
朝が来るのを、ただ待っていた。
⸻
翌朝。
車で移動した。
見覚えのない道だった。
低い建物の前で止まる。
小さな火葬場だった。
待合室には、誰もいない。
椅子がいくつか並んでいるだけ。
名前を呼ばれる。
白い台車が、ゆっくり奥へ入っていく。
扉が閉まる。
短い電子音がした。
それだけだった。
担任も、何も言わなかった。
自分も、何も言わなかった。
⸻
しばらくして、白い箱を渡された。
軽かった。
両手で持つ。
それで終わりだった。
⸻
車に戻る。
窓の外が流れていく。
昨日と同じ道のはずなのに、順番がわからなかった。
「今日は家に帰っていい」
担任が前を向いたまま言う。
「ただ……ひとりで生活するのは難しい」
「学校の施設に部屋を用意する」
「寮みたいなところだ」
「準備ができたら、引っ越そう」
事務連絡みたいな声だった。
「……うん」
それだけ答えた。
⸻
家に入る。
「ただいま」
返事はなかった。
自分の声だけが、少し響いた。
台所はそのままだった。
食器も、椅子も、昨日のまま。
静かだった。
骨壺を、食卓の端に置く。
白い箱だけが、そこにある。
冷蔵庫の音。
時計の針。
それだけが、聞こえる。
同じ家なのに、
少し広くなった気がした。
⸻
窓の外は、晴れている。
雲が、ゆっくり流れていた。
しばらく、何もせずに座っていた。
それだけの一日だった。




