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青景の頁(せいけいのページ)――産声が消えた世界で  作者: 直助


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5/10

同じ屋根の下で

 施設を出る。


 車は、来たときとは違う道を走った。


 見たことのない交差点。


 低い住宅地。


 古い商店のシャッター。


 知らない景色が、ゆっくり流れていく。


 窓にもたれて、それを眺めていた。


 やがて、見慣れた道に戻る。


 いつもの電柱。

 いつもの角。


 車が止まる。


 ドアが開く。


 家の前。


 


「ただいま」


 


 靴を脱ぐ。


 廊下は静かだった。


 奥から、包丁の音が聞こえる。


 とん、とん、とん。


 一定のリズム。


 


 手を洗って、居間に入る。


 テーブルには、もう皿が並んでいた。


 オムライス。


 スープ。


 小さなサラダ。


 湯気が、ゆっくり上がっている。


 


「今日、社会科見学だったんでしょ」


 


 台所から声がする。


 少しだけ、かすれて聞こえた。


 


「うん」


 


「どうだった?」


 


「……よくわからなかった」


 


「そっか」


 


 それだけだった。


 


「ケチャップ、足りる?」


 


 うなずく。


 スプーンが皿に当たる音だけが続く。


 


 窓の外は、もう暗い。


 どこかの家のテレビの笑い声が、かすかに流れてきた。


 


「明日、また冷えるって」


 


「ふうん」


 


「上着、出しとこうか」


 


「うん」


 


 祖母の声は、いつもより近い気がした。


 気のせいかもしれない。


 


 食べ終わる。


 皿を流しに運ぶ。


 


「ごちそうさま」


 


「はいはい」


 


 蛇口の水の音が重なる。


 



 


 風呂に入る。


 湯に肩まで沈む。


 天井の染みを数える。


 


 目を閉じると、白い部屋を思い出した。


 ガラス。


 眠ったままの顔。


 数字の表示。


 


 しばらくして、考えるのをやめた。


 



 


 布団に入る。


 電気を消す。


 


 居間から、テレビの音。


 食器を片付ける音。


 引き戸の音。


 


 いつもの生活の音が、順番に消えていく。


 


 目を閉じる。


 


 それだけの夜。


 



 


 朝。


 


「ヤマト」


 


 すぐそばで声がした。


 


 目を開ける。


 祖母が、枕元に立っている。


 


「ご飯できてるよ」


 


 少しだけ、近い声だった。


 


 うなずいて、起き上がる。


 


 味噌汁の匂い。


 白い湯気。


 いつもの食卓。


 


「いってきます」


 


「気ぃつけてね」


 


 その声を背中で聞きながら、家を出た。


 


 同じ道。


 同じ空。


 同じ朝。


 


 ただ、それだけの一日だった。


 


 車に乗る。


 ドアが閉まる。


 走り出す。


 


 窓の外の景色が、いつもの順番で流れていく。


 交差点。


 コンビニ。


 歩道橋。


 


 十分ほどで、校門。


 


 席に座る。


 教科書を開く。


 ノートを取る。


 ページをめくる。


 


 担任の声が前から聞こえる。


 内容は、あまり頭に残らない。


 


 昼休み。


 包みを開く。


 卵焼きと、唐揚げ。


 ひとりで食べる。


 


 午後の授業。


 研究室。


 白い机。


 端末の画面。


 数字。


 


 気づけば、終わっている。


 


 また車に乗る。


 来た道を、逆に戻る。


 


 同じ建物。


 同じ空。


 同じ夕方。


 


 家の前で、車が止まった。



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