いつもの食卓で
車が止まる。
ドアが開く。
家の前。
「ただいま」
「おかえり」
台所から祖母の声が返る。
鍋の蓋が触れ合う音がした。
手を洗って、居間に入る。
テーブルには、もう皿が並んでいる。
カレー。
スープ。
サラダ。
湯気がゆっくり上がっている。
「今日、カレーか」
「昨日スーパーで安かったの」
それだけの会話。
「サラダ、ちゃんと食べなさいよ」
言われて、うなずく。
スプーンの当たる音だけが続く。
窓の外は暗い。
どこかの家のテレビの音が、かすかに聞こえた。
「明日、ちょっと冷えるらしいよ」
「ふうん」
「上着、出しとく?」
「うん」
鍋の火が小さく鳴っていた。
⸻
風呂に入る。
布団に入る。
電気を消す。
夜が、静かに過ぎる。
⸻
朝。
目が覚める。
いつもは廊下から声がする。
今日は、すぐそばで名前を呼ばれた。
「ヤマト、起きなさい」
目を開けると、祖母が枕元に立っている。
「ご飯できてるよ」
少しだけ近い声だった。
⸻
午後。
施設見学の日だった。
車はいつもと違う道を曲がった。
窓の外の景色が、少しずつ見慣れないものに変わる。
低い建物。
白い壁。
フェンス。
標識の少ない道。
やがて、大きな施設の前で止まった。
無機質な外観。
窓は少ない。
病院にも、工場にも見えた。
中は静かだった。
足音だけが響く。
白い床。
白い壁。
白い光。
消毒液の匂いが、わずかにする。
担任が何か説明している。
制度の話。
管理の話。
保存の話。
半分も聞いていなかった。
ガラス越しに、透明なカプセルが並んでいる。
霜のついた窓。
数字の表示。
小さな体。
毛布に包まれたまま、眠っている。
赤ん坊のまま、時間が止まっているみたいだった。
さらに奥。
別の部屋。
ベッドが並んだ部屋。
管が何本も繋がれている。
ゆっくり上下する胸。
自分と同じくらいの大きさの体もあった。
背丈。
腕の長さ。
閉じられたまぶた。
年齢だけなら、同じだった。
違うのは、
目を開けているかどうか。
それだけだった。




