棚の奥の、小さな窓
昼休み。
廊下を歩いていると、前から担任が来た。
片手に脚立を担いでいる。
金属が床に当たって、かすかな音がした。
「青木、ちょうどよかった」
足を止める。
「悪い、少し手伝ってくれないか」
脚立を軽く持ち上げてみせる。
「上の棚の資料が取りたくてさ。年取るとこういうの面倒でな」
冗談みたいに笑った。
そのまま一緒に図書室へ向かう。
⸻
中は薄暗くて、少しだけ空気が冷えていた。
脚立を立てる音が、やけに響いた。
棚の前に立てる。
担任が上に乗った。
「そのへん、三段目の右。分厚いやつ」
言われた通り、背表紙の擦れた本を抜き取る。
紙と埃の匂いがした。
脚立を降りると、担任はそのまま床に座り込んだ。
棚にもたれて、本を開く。
ページをめくる音だけが、静かに続く。
図書室は薄暗い。
窓から入る光が、床に細く伸びている。
なんとなく、少し離れたところに座った。
「なあ、青木」
顔は上げないまま、担任が言う。
「変な話していいか」
返事はしなかった。
担任は気にせず、ページをめくる。
「俺さ、たまに思うんだよ」
紙が擦れる。
「魂ってさ、総量が決まってる気がするんだよな」
本の端を指で押さえたまま、続ける。
「絶滅する動物とかいるだろ。外敵とか環境とか、いろいろ理由つけるけどさ」
「もしかしたら、ああいうのも、魂を使い切ったってだけなのかもな」
小さく笑う。
「人間も、同じだったりして」
またページをめくる。
しばらく、紙の音だけが続いた。
「……まあ、漫画の読みすぎか」
本を閉じる。
「忘れてくれ。ただの空想」
立ち上がって、脚立を畳む。
脚立の金属音が、図書室に小さく響いた。
⸻
担任は脚立を担いで、先に出ていった。
扉が閉まる。
図書室に、また静けさが戻る。
棚の奥に、小さな窓がある。
近づく。
四角く切り取られた空が見えた。
晴れている。
雲が、ゆっくり流れていた。
光が、埃を白く浮かせている。
それを、しばらく眺めていた。




