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青景の頁(せいけいのページ)――産声が消えた世界で  作者: 直助


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3/10

棚の奥の、小さな窓

 昼休み。


 廊下を歩いていると、前から担任が来た。

 片手に脚立を担いでいる。


 金属が床に当たって、かすかな音がした。


「青木、ちょうどよかった」


 足を止める。


「悪い、少し手伝ってくれないか」


 脚立を軽く持ち上げてみせる。


「上の棚の資料が取りたくてさ。年取るとこういうの面倒でな」


 冗談みたいに笑った。


 そのまま一緒に図書室へ向かう。



 中は薄暗くて、少しだけ空気が冷えていた。


 脚立を立てる音が、やけに響いた。

 棚の前に立てる。


 担任が上に乗った。


「そのへん、三段目の右。分厚いやつ」


 言われた通り、背表紙の擦れた本を抜き取る。


 紙と埃の匂いがした。


 脚立を降りると、担任はそのまま床に座り込んだ。


 棚にもたれて、本を開く。


 ページをめくる音だけが、静かに続く。


 図書室は薄暗い。


 窓から入る光が、床に細く伸びている。


 なんとなく、少し離れたところに座った。


「なあ、青木」


 顔は上げないまま、担任が言う。


「変な話していいか」


 返事はしなかった。


 担任は気にせず、ページをめくる。


「俺さ、たまに思うんだよ」


 紙が擦れる。


「魂ってさ、総量が決まってる気がするんだよな」


 本の端を指で押さえたまま、続ける。


「絶滅する動物とかいるだろ。外敵とか環境とか、いろいろ理由つけるけどさ」


「もしかしたら、ああいうのも、魂を使い切ったってだけなのかもな」


 小さく笑う。


「人間も、同じだったりして」


 またページをめくる。


 しばらく、紙の音だけが続いた。


「……まあ、漫画の読みすぎか」


 本を閉じる。


「忘れてくれ。ただの空想」


 立ち上がって、脚立を畳む。

 脚立の金属音が、図書室に小さく響いた。



 担任は脚立を担いで、先に出ていった。


 扉が閉まる。


 図書室に、また静けさが戻る。


 棚の奥に、小さな窓がある。


 近づく。


 四角く切り取られた空が見えた。


 晴れている。

 雲が、ゆっくり流れていた。

 光が、埃を白く浮かせている。


 それを、しばらく眺めていた。


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