同じ道を、今日も
昼休み。
教室には、机と椅子と自分だけ。
鞄から包みを取り出す。
布をほどく。
卵焼きと、唐揚げが二つ。
窓の外で風が鳴る。
箸の当たる音だけが、やけに大きく聞こえた。
⸻
授業が終わる。
椅子の脚が床を擦る音だけが残った。
担任が何か言っていたが、もう聞いていなかった。
鞄を持って外に出る。
校門の前には、いつもの車が停まっている。
決まった時間、決まった場所。
後部ドアが静かに開く。
乗り込む。
十分ほどの道のり。
窓の外の景色が、来たときと同じ順番で流れていく。
同じ建物。
同じ交差点。
同じ空。
同じ信号。
それを、ただ眺めていた。
⸻
家に着く。
「ただいま」
「おかえりなさい。ちょっとまだ寒かったんじゃないの。明日は上着持っていきなさい」
台所から祖母の声。
鍋の蓋が触れ合う音がする。
手を洗って、席に座る。
ご飯。
味噌汁。
ハンバーグ。
サラダ。
湯気が静かに上がっている。
「いただきます」
小さく言って、箸を取る。
「今日、桜が咲き始めててね」
「気がついたらすぐ散っちゃうから、見といたら」
世間話とも言えないような声。
うなずくだけで、また箸を動かした。
風呂に入る。
湯に肩まで浸かる。
天井の染みを、しばらく眺める。
布団に入る。
電気を消す。
目を閉じる。
それだけの一日。
翌朝。
「ヤマトー、ご飯できてるよ」
同じ声。
同じ匂い。
「今日は上着持っていきなさいね」
昨日と同じことを言う。
また車に乗る。
同じ道を、同じ順番で戻っていく。
⸻
校舎に入る。
廊下は静かだった。
自分の足音だけが、やけに響く。
教室の扉を開ける。
「おはよう、青木」
担任が黒板に日付を書く。
チョークの粉が、白く残る。
手元の端末に触れ、出席が自動で記録される。
しばらくして、教科書を開いた。
淡々と、読み上げる声。
「2042年、産声消失」
ページがめくられる。
「三十年間、新生児の発声確認なし」
また、めくる。
「2072年8月7日午前6時12分、男児出生。国内で三十年ぶりに産声を確認」
⸻
板書の音だけが続く。
窓の外は晴れている。
雲が、ゆっくり流れていた。
光だけが、教室に差し込んでいる。
それを、しばらく眺めていた。




