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青景の頁(せいけいのページ)――産声が消えた世界で  作者: 直助


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10/10

ある朝の記憶

 朝。


 

 目が覚める。


 

 天井が白い。


 しばらく、そのまま横になっていた。


 


 音はない。


 


 足音も、


 食器の音も、


 名前を呼ぶ声も。


 


 ただ、遠くで蝉が鳴いている。


 


 体を起こす。


 


 顔を洗う。



 制服に袖を通す。


 

 もう、起こされなくても起きられる。


 

 それが少しだけ不思議だった。



 食堂。


 


 同じ席。



 同じトレー。



 同じ味。


 

 向かいの椅子は、今日も空いている。


 

 箸の音だけが響く。



 教室。


 

 窓の外は晴れている。


 

 担任が黒板に日付を書く。

 2087年8月7日。


 チョークの音。



 その下に、文字を続ける。



「2072年8月7日 午前6時12分男児出生。

 三十年ぶりに産声を確認。

 母体はその後、容体が急変。

 同日午前、死亡が確認された。」

 


 板書の音だけが続く。


 

「今日は、この日の記録を扱う」


 

 淡々とした声。


 

 いつもの授業と同じ調子。


 

 ページをめくる音。



 時系列。



 体温。


 

 心拍。


 

 呼吸。



 正常。



 そして。


 母親が、


 最初に聞いた音。





「――産声を確認」


 そこだけ、なぜか耳に残った。




 朝だったらしい。


 まだ日が低い時間。




 病室に、声が響いたと。


 

 そのとき、



 不意に思った。


 



 その声を、


 



 自分の声を。





 聞いていてくれたんだ、と。




 窓の外を見る。



 雲が、ゆっくり流れている。


 

 空が広い。


 


 胸の奥が、少しだけ熱くなった。


 理由は、うまく言葉にならなかった。





 ただ、


 息を吸うと、


 

 目の奥が、少しにじんだ。





 授業が終わる。



 席を立つ。


 


 廊下を歩く。


 いつもの道。


 同じ空。


 同じ朝。




 それでも、



 

 今日は、


 少しだけ違う気がした。


 



 遠くで、蝉が鳴いている。


 あの日も、


 こんな朝だったのかもしれない。


 



 窓の外。


 青い空。


 雲が、光を受けて白く膨らんでいる。


 夏の匂いが、少しだけした。




 それを、



 しばらく眺めていた。



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