第4話 長安のライチ
『長安のライチ』
制作国:中国 主演:ダー・ポン 監督:ダー・ポン
・あらすじ:
むかしむかし。数学で長安の役人になった李という男がいた。
李はすぐにビンタするが支えてくれる美人で肝っ玉母ちゃんの奥さん、可愛い娘のため、ローンを組んで家を買った。
役場は「嶺南産のライチを皇帝に献上せよ」という勅令を李に割り振る。その辺の市場で買えばいいだろう、これで出世なんて楽ちんだぁと浮かれ気分の李だったが、書類は偽装されていた! 李は皇帝に「加工済みライチ」ではなく「嶺南産の“生ライチ”」を献上しなければならないのだ!
ライチは長く持っても4日で腐る。そして李が嶺南に大急ぎで向かっても約30日かかった。この無茶なミッションにどう立ち向かう!?
・想:
傑作。俺の大好きなタイプの映画。
この映画の監督兼主演ダー・ポンは一昨年俺にスマッシュヒットした『熱烈』の監督である。『熱烈』はダンスの映画だったが、嫌味がなく真面目な主人公、気のいい仲間たち、無理難題に対する熱烈な挑戦と、とにかく俺好みの映画だった。今回も同じく無理難題に挑むうちに、主人公の本気の姿を見て周囲が力を貸したくなるという熱い展開がある。参った……。これがダー・ポン監督の勝利の方程式なら、今後すべての映画が俺に刺さるということになる。
<『熱烈』×『ラストナイトインソーホー』>
冒頭の長安の景色でぐぐぐと引き込まれた。誰もが憧れる華美な都といった趣があり、大質量のエキストラとセットでの臨場感が強い。そこに生きている感覚に引き込む力は、『ラストナイトインソーホー』で60年代ロンドンに連れていかれたのと同じ感覚だ。市場の活気、宮廷の厳かさ、寺では偉い人の後ろで大仏が李を見つめていかにその人が偉いか強調していたりする。
嶺南パートは南国ムード、厳かかつハイクラスな長安と違い、少し野蛮な印象もあるがそれでも陽気なムードが漂い、ここはもう長安とは全く違う文化、つまり長安と嶺南がいかに遠いか教えてくれる。
果樹園は竹の生い茂る小道の先。ライチの木には害虫駆除のための紐が括りつけられている。
上手く言えないが、どこへ行っても場所に作用するシズル感があった。
人物を映したい時と場所を移したい時でどこに視線が向けるべきかきちんと導線が引かれており、まずは嶺南のド派手な文化を見せた後、嶺南を歩く李のシーンでは後ろでどれだけ派手な曲芸をやっていても気が散らないようになっている。クローズアップした画が多く、大急ぎでライチを運ぶ時は馬、登場人物の葛藤や快哉の時は人物を中心に添え、周囲が動くカメラワークが多かった。ただシチュエーションが派手なのではなく、邪魔にならないが大きい存在感。これは本当に『ラストナイトインソーホー』と同じだ。
そして↑でも書いたが、
①主人公が無理難題をつきつけられる。
②それでもごまかさずズルをせず、本気で取り組む。
③やがてそれが楽しくなってきてしまう。
④仲間が増える。
⑤集大成をぶつける時が来る!
これは『熱烈』と同じ。
今回も生ライチを運ぶのは絶対に無理とわかっていながらも、李は最初は家のローン完済のために嶺南に向かう。そこで奴隷、商人、果樹園の女主と仲間を増やし、時にぶつかりながらも同じ目標のために突き進む。いわば友情・努力・勝利だな。
<数学者×ウォーズマン算>
李は数学者であるため、数字の計算はキッチリやる。自分にそんな計算でも数字を合わせるくらいだが、真面目過ぎて融通が利かないわけでもなく、逆にちゃらんぽらんでもない。本当に普通の、出世とは無縁の役人なのだが、嶺南で仲間を背負ってからは序盤のヘナヘナおじさんからは想像もつかないくらい逞しくなってくる。彼が変わった瞬間は中盤のグラフ作成からである。
李は果樹園の女主からライチを長持ちさせる方法を聞き、商人の人脈と資金を使っていくつかのルートで長安へライチを運ばせる。そして百里進むごとにライチの色、におい、味などで状況を伝書鳩で伝えてもらい、先述の状態を踏まえてルート、距離、時間でグラフを作っていく。このあたりはさすが数学者だ。こうやって主人公がスキルを発揮出来るのもまた気持ちがいい。特に李は役所では冷遇される計算係であったから、ここは本当に生き生きしている。
多分、このあたりで李は「どうやって皇帝にライチを献上するか」ではなく、「どうやったら運ぶ方法を見つけられるのか」と、過程が目的になっている。ここも『熱烈』との共通項だ。
そしてクライマックスに差し掛かろうかという頃、長安に帰った李は“ウォーズマン算”じみた理屈で生ライチの運搬が可能であると説明する。
先にウォーズマン算を説明しよう。
……
超人強度100万パワーのウォーズマンは、1000万パワーのバッファローマンのパワーに圧倒される! どうやって勝つ!? そこでウォーズマンは、腕に鉄の爪“ベアークロー”を装着して錐もみ回転しながら突撃する大技“スクリュードライバー”を以下の計算で強化することにした!
・ベアークローを両手につけて100万+100万で200万パワー
・いつもの2倍のジャンプで400万パワー
・そしていつもの3倍の回転を加えれば! バッファローマン! お前を超える1200万パワーだ!
『キン肉マン』の世界ではこれで通用するが(ちなみにウォーズマンは負ける)、李も宮廷で似たような説明をする。
・嶺南から長安まで最短で11日
・ライチをそのまま運んでも4日で腐る。
・まずはライチを幹ごと運んで数日延長!
・果樹園の女主から教わった保存方法で数日延長!
・宮廷の人員と馬をフル動員してリレー形式で運ぶことで疲労を抑え運送時間10パーセントカット!
・そこに宮廷の予算で買った大量の氷を合わせれば! 10日で到着だ!
ここが本当によくて……。何度も擦ってしまって申し訳ないが、ここを説明する時の李は完全に熱烈しており、もう皇帝や報酬、失敗した場合の罰は半ばどうでもよくなっている。運べる方法が見つかった。それにただ熱狂しているのだ。この熱さが本当にいい。
そしてラストシーン。ネタバレはしないが、李はとある出来事に言葉にならずむせび泣く。ここでタイトルが回収され、李の愛情深さや人間くささが爆発する。確かに李は無理難題をなしとげたが、彼自身は超人ではなく数学という特技があっただけのおっさんにすぎない。だがそのおっさんが努力し、その過程で人望を伴っていくというのは、物語の中では正直者が救われる優しみに溢れている。
そしてこの映画では“喜び”が強く描かれている。人間は喜ぶために生まれてきた、とでも言わんばかりに、グラフ作成時は前回よりも少しライチが長持ちした、今年最初の酒が出来たから祭りだ、ライチ運送の方法が完成した、という李の喜びのみならず、奴隷、商人、果樹園の女主らも表情豊かに喜ぶ。そしてその喜びの理由が、徐々に進展していく李と共有されていくのがマジで友情。
<そして>
ただし最後で李が宮廷や皇帝たちがいかに傲慢で、民が苦しんでいるかを訴えるシーンは長かったかな。俺は李はそういった政治的な思想……宮廷内の顔色伺いのような政治とは接点があるが、国家単位の政治には思想を持たず、貧乏な民には食事を分けるがこのライチ運送を通じて政治的に強い思想を持ってほしくはなかったな。ただただライチを運ぶ方法を考えて走るおっさん。このままでいてほしかった気もする。
あとは……。本当に余談だが、俺が温めてる短編って大体今回の『長安のライチ』の導入と似たものなんだよな。メンツや仕事内の政治で無理難題をふっかけられた若手やさえない職員が、いかに無理を可能にするか……。そういうのばかり考えていた。結果的に一本も世に出せていないし……実際には別サイトのポケモン二次創作でポケモンジム誘致によるまちおこしを命じられた役場の若手の物語『ゴロンダ、白黒つけるわよ!』を投稿してあまりの手ごたえのなさにプロローグで打ち切った。
そういう職業もの喜劇に対する憧れもあるのだろう。
しかし『長安のライチ』、土地のシズル感、好感度の高い主人公と仲間、喜劇、友情・努力・勝利などなど、いろんな要素が混ざっているのにきちんと整理されてとっ散らからず、時間を忘れて没頭する映画であった。
相当に面白いぞ、かなりおすすめ。




