第3話 マタギガンナー
※この感想は2025年6月26日に活動報告枠で掲載した感想を再編集・再掲したものです。
『マタギガンナー』(6/23作成)
最終巻が今日発売された。
まずは俺と『マタギガンナー』のなれそめ、何故全巻購入に至ったのか、その経緯を説明しよう。
俺は元からマンガが好きであったが加齢に伴い興味が薄れ、本屋で新規のマンガをディグることがなくなった。多分、昨年の1月頃に『スーサイドガール』を見つけて以降やっていない。『スーサイドガール』以降は電子書籍派になったため、本屋での一期一会を失ってしまったのだが、マンガへの興味が薄れてしまった俺にはさほど痛手ではなかった。
それでもジャンプとモーニングの購読は続けている。ジャンプはほぼ惰性だが、『モーニング』はまだまだ面白いマンガも多い。
『マタギガンナー』はモーニング連載のマンガである。かつて原作者の藤本氏は終電という概念を擬人化した『終電ちゃん』というマンガを描いており、かなり好きだったのだがモーニングからモーニング系列の他紙に移籍してしまったため追えていない。だが終電の持つ人情を描く一話完結、俺好みであった。
本作『マタギガンナー』は、『終電ちゃん』では原作も作画もやっていた藤本氏は原作に専念、作画はスペイン人のフアン氏という異色の組み合わせだ。
モーニング掲載なのだからと読んでいたが、当初の俺の感想は「普通」であった。本当に普通であったのだが、世界大会編が始まって様子が変わったことに気付く。元より主人公たちに負けていくチームの悲哀や救いといった人生の背景が描かれていることが特徴的だった本作だが、主人公チーム“マタギガンナー”と幾度となく激突する韓国代表“パンダキングダム”、その因縁のライバルとの最終決戦で描かれたパンダキングダムの過去があまりにも熱すぎ、その戦いで主人公のチームメイトが激アツの覚醒。「アレ? 『マタギガンナー』面白くね?」と気付いて全巻購入。そして今日、最終巻が発売されたのだ。
あらすじを紹介しよう。
……。
妻に先立たれ、秋田の山奥で一人暮らしの元マタギの老人・山野仁成。彼は近所に不法投棄されたゲーム機を拾い、そこに入っていたFPS『ガンナーズ・トライブ』をいじってみる。ひたすらいじってみる。そして2年が経った頃、山野はマタギの知識とスキル、そして超高速・超精密エイムによる凄腕のスナイパーに成長していた!
山野はある日、ゲーム内で知り合った女子高生の白金高菜と共にスペイン最強の悪徳プレイヤー“キルキャット”と戦うことになる。
しかし、キルキャットとの戦いは、この後山野が踏み込んでいく大いなる戦いの前では、ごくごく些細な先ぶれに過ぎなかったのである……。
どういう順番で紹介しようか……。
作品の特徴を端的に言うと、ゲーマーたちの群像劇であり、ゲームの中で行われる疑似的な能力バトルである。
キャラクターから紹介しよう。
・山野仁成
主人公。本格的に物語がスタートする時点で71歳。都会のことや現代的なことはほぼわからない田舎の無口な老人。誰にも何も教えられず、ただただ2年間ゲームをいじりつつ、畑仕事や害獣退治を行ってきた。
上記の通りに戦いを疑似的な狩りとして、敵の動きや心理を予測してゲームのセオリーにない行動で意表を突く。超高速で超精密なエイムは、チーターから「このじいさんチートしてる!」と断ぜられる程のウデマエ。
チーム“マタギガンナー”では、チームメイトのソフィア、メグがいかに山野に自由に撃たせるか、が肝になってくる。いわば在りし日のトリプルバトルのニンフィア。トリプルバトル界隈では「中央でニンフィアが三回鳴けば(『ハイパーボイス』を撃てれば)勝つ」という格言があるようだが、まさにいかに山野に撃たせるかをチームメイトが整える。
現代的なことがわからない、外のことはわからない、頑固で無口なおじいさんということで、ややコミュニケーションに難がある。
世界大会に向かう途中で迷子になって序盤戦欠場、世界大会が開催されるのはアメリカだから行きたくない、立ち入ると死ぬエリアに「どうやったら入れるか」を試し続けて自滅を繰り返す等、トラブルメーカー的な要素も多い。もちろんフォローや理由は入るのだが、主人公としては「マタギだったからスナイパーとして最強のおじいさん」という出オチ的な感じであり、戦力は圧倒的だが好感度はどうか、というと……。
山野自身が自分を責めていたりするような描写はほぼないのだが、先立たれた妻やマタギ時代の兄貴分であった義兄など、そういった人たちの“遺言”は呪いのように山野を縛る。その縛りによって山野がゲームを続けていることがわかるのは終盤だが、それがわかる頃には既に、山野は呪縛以上にゲームが好きな一人のゲーマーになっちまっている。
頑固、あまり機能しないツンデレ、トラブルメーカーだが、最後の最後、最終決戦でソフィアとメグにかけるとある言葉の破壊力はすさまじく、山野の過去、そして現在の動機と未来、全てに繋がる名台詞。普遍的でストレートなセリフではあるのだが、ここでようやくツンデレが機能した。
とはいえ、やはりトラブルメーカーの印象が強く、終わってみれば『マタギガンナー』という作品はリアルチートなスナイパーをチームメイトに持ったソフィアとメグの物語、と受け止めるととても楽しい。
チームの中では所謂“異能”な戦士。
・白金高菜
最初の仲間にして、俺が読んできたマンガ史上でも稀にみる……というかこれ程の不遇はいないのではないかと心底可哀そうに思える不遇キャラ。
東京の女子高生で友達もおらず、ゲームの世界にのめり込みで、ちょっと無愛想でクールビューティーな都会っ子。それ自体は山野の対極にいる属性で全然悪いことではない。
山野はゲームのIDも本名のままのため、山野の腕を見込んで東京から秋田へ。共にスペイン最強プレイヤー“キルキャット”と戦ってくれと頼みに来る。ゲームの常識や仕組みを山野に説明してくれる解説役なのだが、俺のようなFPSもオンラインゲームもやらない読者へのナビゲーターでもある。
キルキャットの圧倒的強さと煽りプレイ、さらにチームメイトをキルキャットに強奪されるというぶちのめされた状態で登場し、山野と共にキルキャットを倒す。
そこから彼女の転落人生が始まる……。
東京に帰った彼女は、ゲームに没頭し過ぎることはやめて友達を作ったり大学のことを考えたりするようになる。山野たちのチームも出場する世界大会編の頃には、開催地アメリカにホームステイして大会のボランティアも務めている。務めているのだが……。
『マタギガンナー』全11巻、俺がこの作品を意識し始めたパンダキングダムとの最終決戦(10巻~)の時点で、俺はこの白金高菜のことを完全に忘れていた……。
後になって読み返しても「こんなキャラいたっけ?」レベルの存在感であり、しかもアメリカでホームステイした頃はアメリカのハイカロリーな食事で太ってしまっている上に性格も丸くなり過ぎて毒にも薬にもならないキャラになってしまっている。
しかもヒロインの座すらも、元“キルキャット”のソフィアに奪われる始末。あまりの不憫と冷遇に言葉が出ない。
・ソフィア
元“キルキャット”。スペインの財閥のお嬢様で、元スペイン代表チームのリーダー。短気な癇癪持ち、ルーキー狩りに煽りプレイ、一度山野に負けた後はチートを使うという、考えうる限り最悪のプレイヤー。
しかしチートを使ってもなお敗れたソフィアは、直接山野と対戦するために秋田までやってくる。
なんやかんやあって後述のメグにスカウトされ、チーム“マタギガンナー”に参加する。
最序盤のクズプレイヤー期を除けば明確にメインヒロインとして君臨しているキャラクター。
煽りプレイ、チート、破滅的な私生活や性格も全て「子供だったから」で理由にはなる。物語の中では最も精神的に成長していく。
二丁拳銃とグレネードを武器にチーム“マタギガンナー”中距離戦を担う存在かつ、曲がりなりにも世界トッププレイヤーのため、ゲーマーとしての勘や土壇場の判断は最も早く、実は一番オーソドックスな戦いをする。ムラのある山野、狙われやすく序盤で死にがちなメグに比べると、やはり一番安定している上に貢献しているキャラだったのでは?
最終決戦直前で手に入れたスキルは“盤面掌握力”。旧知のプレイヤーから授けられた技術であり、視野を広く持ち、冷静さを保つことで漁夫の利を積極的に狙っていくフォア・ザ・チームのスキル。
最終決戦前に「みんなのために戦う」と秘かに決意するその時、クズなお山の大将の面影はなく誇り高いプレイヤーの面差しであった。
チームの中では“天才”→“努力した天才”という感じ。
・メグ
元プロゲーマー。近接武器のナイフを得意とし、かつては“アサシンメグ”の異名で恐れられ世界大会にも出場した実力者。しかしナイフの威力が80%カットという凄まじい弱化……80%にカットではなく、80%カット! 全盛期のナイフの威力を100とすれば今は20! ポケモンで言えば『じしん』が『どろかけ』に! ナイフが通用しなくなったことにより戦力外通告を受け、『ガンナーズ・トライブ』の運営企業に就職。
山野を世界大会へのシードに誘うため、自らも山野に同行せよという会社命令を受けて参戦。
チームリーダーでメガネ、子持ち。俺の一番の推しキャラ。
山野、ソフィアと“マタギガンナー”を結成してからは、ナイフの威力が低いことや最も冷静な視点の持ち主であること、精神的に一番成熟していて社会人向きなこともあり、チームリーダー兼司令塔を務める。
しかし得意武器の威力が低すぎること、偵察や司令塔を務めることから真っ先に狙われることが非常に多く、気付けば毎度おなじみの「あぐ!」の断末魔で死んでいることがとにかく多い。メタ的に言えば主人公の山野、リアクションが面白いソフィアを残すために、真っ先に誰かに死んでもらうならメグ、ということなんだろう。
ナイフ一本で戦えないことは察しており、作中はマシンガンやスナイパーライフルなど様々な武器に挑戦して一定の成果は発揮する器用さ。はじめからフォア・ザ・チームのために動いてくれる有難い人なのだが、あまり労われることはない。
そんな彼女が……。俺が「最近の『マタギガンナー』面白くね?」と気付き始めたパンダキングダムとの最終決戦。彼女は突如、ジャンプの少年マンガかと疑うような激アツの覚醒を果たす。パンダキングダムの過去→メグ超覚醒 この流れが全巻購入して過去も面白かったか検証するきっかけになった。
最終決戦直前で習得したスキルは“ゾーン”。ただただひたすらにタイマンに特化し、ゾーン発動中のメグのナイフ捌きは……。
最終決戦前には、ソフィアとは対極に「自分のために戦う」と決意する。
ソフィアとは言葉、習得したスキルの方向性こそ真逆でも、共通するのはゲームの楽しさであった。
・ライバルたち
文字数節約のために多くは語れない。だが、他のマンガとちょっと違うのは、ライバルたちは「勝ちたい!」という気持ちよりも「負けたくない!」が強いように思う。ライバルたちはプロチームも多いため、勝って褒められるよりも負けてスポンサーやファンに怒られる方が多いのだ。だからこそ背負っているものが重い……。「負けたくない!」やつらだからこそ、敗れて戦場を去っていく彼らの重みが増していく。そこは原作の藤本氏が『終電ちゃん』で描いて来た短いページ数での群像劇と人情話があり、強みが最も発揮されていた瞬間だと感じた。
・よくなかった点
実はかなりある。全体的に説明不足、構成の一貫性のなさや急造感、画力などだ。
やはり一番気になってしまうのはソフィアの“マタギガンナー”入りだろう。ルーキー狩り、煽りプレイ、衆目の前でチートなど悪事の限りを尽くしているのに、それに対する反省や謝罪、禊の描写は実は一切ない。
ソフィアは悪党時代は“キルキャット”、メグにスカウトされた際に“キルキャット”アカウントを使わないこと、チートを使わないことを条件にチーム入りしているが、それでもどこかで過去のチート行為を咎められる展開はあるだろうと予想していた。なかった……。
最序盤で山野vsチート軍団(キルキャットとは別)だってあったのに、キルキャット時代のチートはお咎めなしかよ……。
ソフィアの父や母も登場するが、正直あんまりなくてもいいし、これって必要だったの? って件は他にも多々ある。
必要な知識や要素の追加も多く、その挿入が急であることも散見され、取材しながら原作を作って行って物語開始時には情報が足りていなかったんじゃないか、とも思ってしまう。
そういった突貫工事的な構成の典型的なケースは↑の高菜ちゃんで、読み直せば絶対にヒロイン確定だった高菜ちゃんは雑誌で追っていただけの頃の俺には完全に忘れ去られ、高菜ちゃんから全てを奪ったキルキャットが気付けばメインヒロインに座っていた。
この辺りから察するに、最初の最初は山野が大会に参加する、というストーリーをやる予定ではなかったんじゃないかと思う。
仮に山野と高菜ちゃんでキルキャットを退治し、山野と共闘するためにメグがやってきたとしても、そうなると山野、高菜ちゃん、メグのチームとなり、プロ経験者がメグだけな上にそのメグすらもナイフの弱化でギリギリプロ、というレベルになってしまい、勝ちあがることに説得力がなかったのだと思う。ソフィアは煽りプレイとチートなしでも世界上位クラスのプレイヤーだしな。
そうでもなければ、あの短期、短絡的な性格と煽りプレイ、トドメにチートは、序盤の強敵として去ってもらわねばならないレベルの悪行である。
そういった構造の突貫、急造感、繰り返しでしつこくなってしまうが山野のトラブルメーカーっぷりで主人公に魅力がなかったところかな。
だが、実はソフィアとメグが最終決戦前にライバルたちから伝授された“盤面掌握力”、“ゾーン”は実は山野も使えている。
山野→元マタギという“異能”
ソフィア→子供のころからゲーマーでセンスバツグンの“天才”
メグ→地道に努力を重ねてきた“職人”
であり、きちんと役割分担されていたのだが実は山野は“異能”な上に天才だったし、2年間誰にも教えられずにプレイして勝ち上がってきた努力の人であった。それを「使えていた」と明言されるのは最終盤だが、思えば初めから山野の強さはこの二つのスキル+マタギの異能によるものであった。
また、ライバルたちには大きく分けて二つの分類がある。
①常連プレイヤー→作中序盤から登場するトップランカー。昨年、一昨年の大会で好成績を残した実力者。ちなみにパンダキングダムはこちら。
②門外漢プロジェクト→ゲームとは遠いところで暮らしてきた宇宙飛行士やお寺の修行僧、占い師や中華料理屋、ロックンローラーなど、会社がスカウトしてゲームをやらせてみたら異能を発揮した新興勢力。
この二つがある。どちらかという常連が噛ませになりがちなのだが、山野の“マタギ”という異能ほど深く掘り下げられる異能連中が不在。肩書だけ並べると、“マタギ”が異能最強としか認識出来ず、明確にバックボーン(異能)に優劣がついてしまう。むしろ何度も戦って何度も負けた“パンダキングダム”は、名勝負数え歌ということで負けこそすれしっかりとライバルという属性が噛ませ犬属性を上回るため、負け続けたからこそ美味しいポジションだ。
そして過去が掘り下げられるライバルたちもゲーム一筋の常連プレイヤーが多く、門外漢プロジェクトの異能たちの掘り下げがほぼない。この辺りにやっぱり突貫工事感を感じてしまう。
あとは、山野が若者たちに何かを教える時にホイホイ山に連れて行きすぎる。最終盤では山、狩り、動物の危険さが、ラスボスとの最大の因縁になっているだけにこの軽率さは疑問。
画力に関しては向上していったが、最序盤の高菜ちゃん初登場時などはかなりひどく、そういった意味でも序盤の低い画力で描かれてしまった高菜ちゃんはまた不遇であった。
とはいえ、ゲーム内のアバター、主人公である山野はずっと安定しており、フアン氏の適性と、主人公としてずっと練習してきたであろう軌跡、本職はアメコミなのに日本とリモートで週刊連載というタイトでハードなスケジュールと環境を鑑みればある程度仕方ないことではあり、後半での向上は目を見張るものですらある。それでもいまいちだが……。
とはいえ、この作品の最大の長所は本格的なプロ編が始まってからは不快なキャラがいないということである。序盤のキルキャット、チート軍団さえ倒してしまえば、ただただひたすらにゲームに真摯な連中の熱いバトルが繰り広げられる。
細かい粗はかなりあるが、短い時間ですッと読める(一冊当たり15~20分)、キルキャット改心を許せればストレスフリーなマンガであろう。キルキャットの禊はない。むしろ先に俺がこう断言しておけば、もやもやもなかろう。かくいう俺も「禊展開で熱いバトルが停滞したら嫌だなぁ」と思っていたので、結局は禊と話の停滞、どちらをとるかだ。
好き嫌いは分かれるだろうが、好きになれなかった人の感想としては「地味すぎる」で落ち着くだろうな。




