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とり憑きたるは神か悪魔か  作者: Alice Lee


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第5話 低血糖発作




 退院してから毎週土曜日は大学病院に通っていた。その当時は土曜日も授業があったのだが午前中だけであり、いわゆる半ドンの日であった。


やがて二週間毎になり、最終的に月イチで通うこととなるのだった。


通院はいつも母の運転する車で、弁当を持ってお昼は大学病院の敷地内で食事した。


帰りに母の買い物に付き合ったり、知り合いの家に遊びにいったり。


ただし、入院のときもそうだったが授業に出ない日があると勉強についてゆけず、特に算数など基礎を習っていないことで理解が追いつかなくなっていった。


もともとあまり勉強が好きではなかったから、自分で勉強して追いつこうという気にもなれなかったし、基礎のいらない暗記で覚えれる科目の方が得意になっていった。


 退院して間のない体育の授業がある日には、親の車で送ってもらい、行きがけに商店で菓子を買い持たされ、授業前に食べるよう言われた。


補食、というやつだ。


まだ朝一度のインシュリン注射の時代であったから血糖コントロールはかなりシビアであった。


今の時代、超即効型インシュリンを食事前に射てば血糖値の過度な乱高下は減らせるのだが、当時はそのように品質と性能の良いインシュリンは存在しなかった。


ガラス製の注射器からプラスチック製の物へと変わりはしたが、インシュリン製剤はガラス容器に入ったものであり冷蔵保存しておかなければならなかったのだ。


身体を動かしエネルギーの消費が上がる時には血糖が大幅に下がる恐れがある為、補食をして血糖を高めにもっていく必要があった。


その為の菓子であったが、皆の前で食べるわけにもゆかず、教室で独りで食べて授業に向かうといった具合である。


生活に慣れてくると補食も持たず普通に片道約2キロの道のりを歩き通った。


ある日、体育の授業前、体育用具室からボールを手に体育館へ向かっていたところ、通ったはずの渡り廊下をどのように歩いてきたのか思い出せないでいた。


皆が待つ体育館に着き、体育座りをして先生の話を聞いていた途中から、意識を失ってしまうのだ。


自分では記憶が無いのだが体育の授業は受けていたらしい。


その間の記憶がまったくないのである。


幸運にも給食の時間となり体調は戻るのだが、これが1型糖尿病になって始めての低血糖発作であった。


それから氷砂糖やマービーというこの業界では有名な飴を持ち学校に通うようになるのだった。


学校にも変化があった。


ずっとではなかったが、給食にチョコレートがついたり、おそらく学校側が配慮してくれたんだと思う。


もう一つ、低血糖の忘れられない思い出がある。


 クラスの校外授業で少し離れた山に地層の学習に出掛けたときのことだが、案の定山道の途中で低血糖発作を起こしてしまい歩くことが出来なくなってしまった。


その時は飴を持っていなかったので困っていると。


クラスで一番の力持ちである、いわゆるジャイアンのように強い友達がおんぶしてくれ、他の男の子達も山に柿の木を見つければ登って柿を食べさせてくれ、またある友達は学校への帰りに自宅により甘いものを食べさせてくれたりしたのだ。


クラスの皆んなで助けてくれた事は決して忘れない。


田舎の学校であったからであろうか、小学校から中学卒業までクラスは一つしかなく、皆兄弟のような感じであった。


他人と違えば自然と虐めがおきたり、特別扱いされていると思えば嫌がらせの一つもあってよいものだが、このクラスにはそれが無かった。


後年、同年代の1型糖尿病患者と交流を持つようになって聞いた話だと、自分達は学校で虐めを受けていた、と社会の現実を突きつけられショックを受けた。


そこには無知から生ずる偏見があり、小さな頃からそのような偏見と闘わなければならないのが1型糖尿病を持つ子供達なのかも知れない。


1型糖尿病患者だけに限った話じゃない。


どのような病気であれ、それによって虐げられてよいわけがない。


だけど僕には、幸運にも助けてくれる仲間達がいた。


どうか世界中が、そのような優しさに満ち溢れた世界になってくれたならと、切に願う。


そして大人になった今でも、毎日が低血糖との闘いであり、多くの人の理解と支えによって生きていられるのだと思う。



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