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とり憑きたるは神か悪魔か  作者: Alice Lee


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第13話 1型糖尿病にとっての結婚




 二十代前半まで、僕にとって結婚とは現実的とは考えていなかった。


考え過ぎ


と言えばそれまでなんだけど、結婚すれば妻となる人に気を使わせなければならない。


やがて妻が子供を身籠ったとして、その子に1型糖尿病が遺伝してしまったなら、と考えたならその子に同じ辛さを抱えさせたくはなかったし、妻に負担をかけさせたくない、と思っていたからだった。


それは独りよがりな考えだということは分かってた。


でも、同じ病気を患う子供を増やしたくないと考えていたんだ。


間違ってはいけないのは


1型糖尿病は遺伝しないということ。


正しくは1型糖尿病になりやすい体質は遺伝するかも知れないけれど、親が1型糖尿病だからといってそれが産まれてくる子供に遺伝することはないという事実。


なかには結婚を考えている相手の親から、遺伝するのではないかと思われ反対されてしまうケースも耳にしたことはある。


昔、子供の頃に聞いた話では九州のとある地域では娘が1型糖尿病を患ってしまった後、その娘を家の恥だと蔵に閉じ込め人目につかないようにしていたとかなんとか。


単なる噂話として聞いていたけど、思い込みや間違った知識を鵜呑みにして疎外するケースはなにも1型糖尿病に限った話ではないのだから、それが実際にニュースで流された真実であった可能性はある。


それと同じように、我が娘、或いは我が息子に1型糖尿病の恋人を紹介されたなら、先ずは我が子の行く末を心配するのが親であろう。


その感情は間違いじゃない。


当たり前の感情だ。


社会人として就職の壁があるように、人生の中で結婚という壁もやはりある。


そこには必ずしも反対という訳ではなく、二人で考えたことだから、自分が選んだ相手だから、と肯定的に受け入れて下さる方のほうが多いかとは思う。


しかしながら誤った知識から、遺伝しては大変だと、結婚を認めない親御さんも当然いらっしゃると思っていた。


だからか、自分は結婚なんかしない、と人生を放棄したかのように考えていたし、まだ小さい1型糖尿病の女の子に結婚したいか問われた時に、病気があるから結婚するつもりはない、と言ってしまったんだ。


その子はショックを受けたかも知れない。


将来好きになった男性と結婚したいと思ったとして、病気があるから結婚してはいけないんだ、という間違った情報を与えてしまったからだ。


本当に悪い事をしたなと思う。


小学生だったその子もやがて短大受験を受ける歳に成長した頃、僕は同じ1型糖尿病の女の子とは結婚しない、と聞いていたと勘違いしていたことを打ち明けられた。


どうも僕に対して好意を抱いていてくれたようだけど、その想いには応えられなかった。


彼女は1型糖尿病のサマーキャンプでお世話をしてくれた看護学生さん達に憧れを抱いたのか、自分も看護師を目指すべく看護学科のある短大を目指しているようだった。


その頃は付き合い始めたばかりの彼女がいたんだけど、その彼女こそ前年のサマーキャンプで知り合った学生さんであり、小さかったその娘が目指している短大の看護学生でもあった。


当然顔見知りでもあり、僕と彼女が付き合っていることにも気付いたんじゃないだろうか。


それ以来その娘には会っていないけど、立派な看護師になっていることと思う。


 その後、付き合っていた看護学生の娘は就職で上京し大きな病院の看護師となった。


気付いてはいたけど、彼女は結婚のけの字も出さない僕に見切りをつけていたんだと思う。


遠距離での付き合いにも限界があり、やがて電話で別れを告げられたが素直に受け入れられた。


ショックは意外にも深かった。


どれくらい時間が経っただろうか、週末には友人と飲み屋に通うようになり、今日はいつもと違う店にいってみようと足を運んだ店で、嫁となる女性と知り合うのだ。


店の娘ではない。


マスターが常連の女性客を呼んであげよう。


そう言って電話で呼び出され来店してきたのが、僕の嫁となる女性だった。


彼女とはやがて付き合うようになりやがて同棲を始めた。


打算的な考えだった。


お互いに家賃と生活費を折半出来て助かる、と。


彼女は僕の好きなタイプとはまったく違っていた。


でも次第に惹かれていった。


家庭的であり、僕の病気に対して勉強もしていた。


何を食べさせたら良いか、どう対応したら良いか。


 低血糖になるとイライラして極度に不機嫌になる事がある。


それも低血糖発作の一つではあるんだけど、傍目には何故怒っているのか理由が分からない。


彼女は対処のしようがわからず、二階建ての借家だったのだけれど、二階の窓から屋根に出て泣いていた。


僕は思った。


僕に結婚する資格があるのだろうか、と。


 忘れもしないその年のクリスマスイブ。僕は用意していた婚姻届けを彼女に差し出した。


指輪なんか用意する金すらなかった。


でも彼女は、受けてくれた。


同棲を始めて数ヶ月後のことだった。


 あれほど自分は結婚してはいけないんだ、と考えていた自分も、自分の身を心配し、共に人生を歩んでくれると思える女性に出会ったことで、救われた気持ちになっていたんだと思う。


容姿ではなく、一緒にいて寄り添える相手。


だから、結婚も悪くないと思えたんだ。







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