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とり憑きたるは神か悪魔か  作者: Alice Lee


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第11話 立ちはだかる壁




 高校生活も三年の二学期を迎える頃には皆が就職先を考えていたと思う。


高校が工業高校であり、生徒の大半が進学ではなく就職組だった。


勉強のほとんどがそれに向けたものであり、大学受験などかなりの覚悟と自分で勉強をしなければ不可能であっただろう。


 高校の同級生に、僕と同じ誕生日で同じ血液型で、自宅も同じ町内の生徒がいた。


同じ町内といっても広いもので、東京の世田谷区が二つ入る広さである。


気軽に行き来出来る距離ではなかったがその後は親友と呼べる付き合いとなってゆく。


 その彼だが、文化祭などではバンドのドラムを担当していたり、頭もかなり良かったと思う。


当時はそれほど仲が良かったわけではなかったけど、ある日を境に、彼を尊敬するようになっていった。


 彼は在学中に身体を壊し、進路指導の先生から病気の事を考えると就職は厳しいだろう、と言われたそうだ。


実際にどのように言われたかは分からないが、そう言われたなら普通はショックで立ち直れないと思う。


何故なら、僕は病気が原因で就職出来ないだろう、と宣言されていたからその時の気持ちが痛いほど分かっていた、つもりだ。


なるようにしかならない。


それが諦めていた僕の考え方だった。


でも彼は違った。


大学受験に向け、独学で勉強し見事合格を果たしたのである。


そこには並々ならぬ努力があったに違いない。


それと、自分の未来を諦めてはおらず、その壁に立ち向かっていく勇気と根性。


称賛されるべきであり、だからこそ乗り越えてゆけたのだろう。


 果たして僕はどうであったか。これは対比になるのかも知れないが、真逆であった。


大学進学など最初から頭になかった。親に学費の負担を背負わせるわけにもいかず、かといって奨学金で通おうなどとも思わない。


勉強が出来ないのも理由のひとつだけど、学費を稼ぎながら大学に通うといった生活が送れるとは自信が持てなかった。


時代はバブル崩壊を前に控えた絶頂期。


一流企業も普段は求人を出さないような高校から何人もとっていた。


浮かれていることに気がつかない時代であった。


僕はなるがままを受け入れ、就職を諦めていたように思う。


ある日、その時の担任から「障害者養護施設に知り合いがいるから、そこの先生になってみないか」、と勧められた。


まったく興味が無かった。


自分が他人に何かしてあげられるなんて思ったことは無かったし、出来るとも思えなかった。


直ぐに断った。


だけどその当時、先生は何かを感じとってくれていたのかも知れない、と後々になって気付くのである。


 1型糖尿病患者に出来ない仕事はない、と言いたいところですが実際は就けない職業がある事は事実。


適切な血糖管理と無自覚低血糖のおそれがないという医師の診断、企業側の配慮があれば可能と言われますが、企業はリスクを考える為に採用を見送る傾向にあります。


特に、パイロットなどは海外では基準が緩和され採用されるケースもあるそうですが、国内ではまだまだ厳しいようです。


電車やバスの運転士も然り。


警察や消防士も現場に出るとなると厳しいとも言われます。


命を預かる仕事においては皆共通しているようです。


でも、これだけは言っておきます。


1型糖尿病の患者さんの中には、就職出来ないから病気である事を内緒にしておこう、と考える方も多いようですが、それだけは止めた方がいいです。


仕事をするならば、自分の病気を知っている仲間を沢山作った方が助けになるからです。


勿論、病気をリスクとして捉え嫌う企業も沢山あります。


でもそんな企業ばかりでもありません。


分かってくれる、配慮してくれる、そういった企業は絶対にあります。


その為にも、自分が出来る事は最大限努力し、コントロールに努めることこそが自分の道を切拓けるのだと気付いて下さい。


 僕の元に、進路指導の先生から話がきました。



「ある工場なんだが、採用の決まった一人が急に辞退してきたそうだ。採用枠が一つ空いたので誰かいないかと問い合わせがあってな。どうだ? 受けてみるか?」



 流れに任せていただけの僕に断る理由はなかった。自分が、何をしたいかなんて考えつかなかったし、受け入れてくれる会社があったのか、と妙な感心を抱いていたと思う。


以前触れた近所の幼馴染、その父親は町役場に勤めていたのだが、親から聞いたのか就職が決まらないことを心配したのだろう、「地元の銀行に口をきいてあげるから働いてみないか」、とコネでの就職を勧めてくれた。


僕は変なところに拘りがあり、その勧めもあっさりと断るのだった。


プライド、とは少し違うと思うのだけれど、他人や薬の助けがあってこそ生きていられる自分が、就職まで助けてもらってどうするんだ、と考えたのも事実。


自分で自分に出来る仕事を探そうとさえしないくせに、である。


 面接と簡単な試験を終えたとき、なるようになるさ、という気持ちは変わらなかった。


1型糖尿病であることは正直に伝えた。


結果は合格。


なんの努力もしないまま、就職という第一の壁は乗り越えたのであった。


しかしながら実際に働いてみると、規則正しい生活リズムなどとれるわけもなく、そうした生活に合わせるべく調整が必要となってくるのだった。


高校を卒業した僕は、こうして社会人としてスタート地点に立つのであった。





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