第1話 忍び寄る足音
これから暑い暑い夏休みを迎えようとしていた一学期の終盤。
僕は同じ集落の児童達と列をなして帰宅の途にあった。
当時小学四年生であり、その列の中には二つ歳上の兄の姿もあった。
「ねえ、兄ちゃん。僕が病気になったらお見舞いに来てくれる?」
「いいよ。何か持って見舞いに行ってあげる」
他愛もない兄弟の会話である。何故そんな問い掛けをしたのか今でも思い出せない。
ただただ、嬉しく思ったことだけは記憶に残っている。
夏病みがやって来ると毎日が冒険であり楽しいばかりであった。
田舎暮らしであったので周りは山と田んぼに囲まれ、家の敷地内にある畑には実ったトウモロコシを食べにタヌキが姿を見せたりもした。
友達と汗まみれになりながら深い山林の中へと足を踏み入れ、道なき道を手探りで突き進みどうにかこうにか車道に行き着いた時には心の底からホッとしたりもした。
当時のテレビ番組で、海外の未開の地を探検するといったシリーズものが流行っており、それを真似たりしたのだった。
確かその当時、玩具のトランシーバーが流行っていたように思う。
因みに町には信号機が一台しかなく、しかも距離にすれば10km近くは離れていただろう。
通っていた小学校とは方向が逆であり、信号機とは無縁の生活であった。
身体に異常が現れ出したのは、夏休みが終わりに近づいた頃だったと思う。
無性に口が渇き水道の蛇口から流れる水を両手で受け止めガブ飲みするのだが、五分後にはまた同様に口が渇きその更衣室を繰り返していた。
当然それだけ飲むのだからトイレも近くなる。
だけど、飲んだ水分がそのまま出るだけじゃない。
身体中の水分が、オシッコとして排出されるのだ。
次第に、体重は減少してゆき痩せていった。
両親が異変に気付いたのは、夜中に何度もトイレに起きては手洗いで水を飲み、朝起きると失禁を繰り返しだしたからである。
親兄妹と川の字で寝ていたのだから気付いて当然ではあった。
まだ、その時は身体に何が起きているかなど誰も知る由もなかった。
始めは単なるオネショだと考えていた親も何度も繰り返し痩せてゆく自分をみて、やはりこれはおかしいのではないか、と小学校近くにある小さなクリニックを受診するのだ。




