教授と少女の再会(Ⅱ)
【『誰ガ為ノアストリア』世界の情報】
・軍事国家『リヴェールノクス帝国』が舞台
・魔法が存在(基本魔法、攻撃魔法、特殊魔法の三種)
・世界全体の文明レベルは近代〜中世だが、魔道具があるため生活水準高め。例)シャワーや風呂、コンロ
・スラム街あり
・魔力による力かなにかで平均寿命長い(平均寿命150歳前後)。20歳までは見た目年齢は地球と変わらない。それ以降は魔力の扱いによるらしい。上手いほど若く見えるとか
【リヴェールノクス帝国】
・革命後、エリアス率いる革命軍により建国。絶対王政→軍中心の軍事国家に
・戦争も活発に行うが、軍需利益のみで成り立っているわけではない
・幹部は9人と少ない(小国で国民数が少ないのも関係か?)
・海に面しており海産資源豊富。炭鉱や魔法石も豊富なため将来狙われるように(地球でいうイギリス的な立地)
【総統&幹部】
・総統:エリアス・グラウ・ヴァルターシュタイン
・幹部:幹部の役職はストーリーによって変化するため省略
アレクセイ
アル・フェティース
白霧龍之介
フェロー・ウィステリア
エイザ・フォーチュナ
アンセ・マキシチャン
レン・フェンオー
レイ
ディエラン
・幹部は全員重い過去あり。場合により国に不利益をもたらすことも。例えば、ゼロのいた人体実験施設、アルの実家である宗教施設など。過去は確定していないため早期判断は危険かも
【その他】
・王立学園
エリアスが通っていた学園。エリアスは飛び級で入学した。14〜20歳までの六年制。全寮制の男子校
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「みたいなかんじですかね」
紫苑さんはそう言うと、ペンを置いた。先程見つけた黒い日記帳に覚えている限りの情報を書いたのだが、数ページに渡ってびっしりと書かれている。
細かいところまで擦り合わせることができたのは良かったが、ここまで覚えているシオンの記憶力に脱帽である。
「はぁ〜。やっぱり詳しいですね。私なんて殆ど知らないことが多かったんですけど……。帝国になるまではストーリーで軽く知ってましたけど、それ以前の王国としての体制だったり王立学園だったりはからっきし」
「きょーじゅ初めたばっかですしとうぜんですよ。でもきょーじゅ、国のありかたとかめっちゃくわしかったじゃないですか。わたしそこらへんぜんぜんおぼえてなかったんですけど〜」
そう言いながら日記帳に書いたことに抜けがないか確認していた。攻略対象達のプロフィールや歴史関しては紫苑さんが、『誰ガタメノアストリア』の内の世界全体の情勢に関しては私が其々分けて書いたものだ。
紫苑さんがいなかったら何もかもが手探りだっただろう。改めて今日の再会に感謝した。
「次は各自の能力の確認ですかね」
「そ~ですね。きょーじゅはこの世界がまほうがつかえる世界なのは知ってますか」
「勿論知っていますよ。虹彩の色と濃淡で子供時代の位置づけが決まる、凄く残酷な世界なことも」
「すごくこめんとしずらいです」
紫苑さんはそう言うと、日記帳のページを捲った。
「私のめ、むらさきでしょう? で、これこーげきまほうふくすう持ちってことらしくって」
そう言われて紫苑さんの目を見た。青紫よりの虹彩の色は深く、上から下にグラデーションのようになっている。藤棚と言えば分かりやすいだろうか。
「水属性有利の少し火属性という感じですか」
「まあそんな感じです。とくしゅまほうは、使えないんですよね」
「……そうなんですね」
「そんなことよりきょーじゅはとくしゅまほう持ちですよね。銀いろなんて、どの属性を混ぜてもならないとおもうんですけど」
火属性は赤で水属性は青だから、彼女は二属性使えるということだろうか。
昨夜読んだ図鑑によると、多属性使いはオッドアイだったりバイカラーだったりするらしいから、彼女もその一種なのだろう。それにしては、語り口的にどことなく違和感を覚えたのだが。
「そうですね。魔力量は多分人類最低ですが、特殊魔法が使えます。護りの魔法って言うんですかね? 記憶から鑑みるに」
護りの魔法とは読んで字のごとく、自身を守護する魔法である。私の魔力は力を打ち消したり跳ね返す性質を持っているらしく、そんな魔力を血液のようにぐるぐると巡らせておくことで、バリアをしているような状態でいられるのだ。
これだけ聞くと実用性が高いように思うが、痛みや苦しみはそのまま反映されるため怪我をしないし、使おうと思わないと守れない。オート機能付きは憧れだったのに。
まだ試したことはないが、魔力を常に巡らせているため毒や洗脳といった状態異常も無効化されるだろう。ちなみに、あまりにも強い外的力だと防げない。
しかし身体に魔力を血液のように巡らせることで傷跡は残らない。石を投げられたり叩かれたりしたのに、今の私の身体に切り傷すら残っていないのはこの魔法のおかげだ。まあ、両親がいじめになかなか気づけなかったのはこの魔法のせいではあるが。
いじめに関することは紫苑さんに言えないため、気が付いた経緯はやんわりとさせて護りの魔法について話した。
「はねかえす……だから銀いろなんですかね」
「? ああ、鏡ということですか」
「そうです。こうさいのいろは魔力のせいしつによるらしいので、はねかえすものなら鏡かなって」
確かに、魔法の性質によって色が変わるなら、銀色は鏡や雪になるだろう。私は頷きながら情報を書き入れた。
「そうそう。異世界転生のおやくそくといえばこれですよね」
そう言って紫苑さんは手を前に翳しながら、ステータスオープンと声に出した。
しかし何も起こらない。紫苑さんはそれからもウィンドウやらなんやらを言っていたが、何も起こらなかった。
「ステータスけいはなし、と」
「ステータスってなんですか?」
「えっと、ほら『アストリア』ではひいたキャラカードのれべる上げとかあったでしょう? それのかくにんみたいな?」
「そんなのがあったんですね」
「あ、この人ひつようなガチャ以外ひいてないんだ。そうですよね、そうですよね」
紫苑さんはじめじめといじけ始めた。その姿に苦笑しつつ、思ったことを告げる。
「紫苑さん、ここはゲームの中ではないんですよ。ステータスとかそういったものはない、現実なんです」
ピリリと部屋の空気が凍りついた気がした。
「勿論、ゲームではないのでやり直しなんてできません。痛みもありますし命の危機だってある。そうやって浮かれていてはいつか足元を掬われますよ」
そう。それに、私も彼女も軍属を予定している。絶対に、そこら辺の一般人なんかよりよっぽど命の危機に見舞われることは明白で。
だからこそ、紫苑さんの浮かれ方ではきっといつか大変なことになる。先程は紫苑さんの軍属を認めたが、このままではまた止めることになるかもしれない。そう思いながら彼女をじっと見つめた。
紫苑さんははっとした顔をして、おもむろに顔面を叩いた。バチンと部屋中に響き渡る音に呆気にとられる。
「そう、ですよね。はい、げんじつです。ごめんなさいきょうじゅ、私どうやらきょうじゅに再会できてうかれていたようです
ここはいたみもあるし危険もある。画面ごしに見ていた虚構ではなく、じったいを伴うほんとうで。いつかかならず死ぬせかいで。……大丈夫です。もう、理解できました。なっとくできました。ここはげんじつなんですね」
「ええ、現実なんですよ。それにしても、折角楽しい気分だったのに水を差してしまいましたね」
「何言ってるんですか、だいじなことですよ! ちきゅーよりもいのちの危機がみじかなんですから、警戒しすぎてわるいことなんてないですからね!」
気まずい雰囲気を振り払うように笑う紫苑さん。紫苑さんを窘めるために比較的優しく言ったつもりだったのだが、逆にプレッシャーを与えてしまったようで申し訳なくなる。
その気まずさを誤魔化すように違う話題を投げかけた。
「あっ! そういえば、私4年後に王立学園に入学するんですよね」
「はぁ〜〜?! な、ん、で、そういうたいせつなことをはやくいわないんですかきょーじゅはぁ!」
大事なことを後出しにしたせいで紫苑さんに腰辺りを執拗に突かれる。いくら相手が4歳の幼女だからといって、ずっと同じところばかり攻撃されるのは地味に痛い。
「い、痛い痛い」
「私は4さいのよーじょなのでいたくないでしょう? えいえいえいえい」
「地味に痛いんですけど……」
この攻防は数分間続いた。し、結果的に紫苑さんが勝った。
「で、きょーじゅはどうやってみなさんをすくうんですか?
あのひとたちをすくうのってけっこう大変だとおもいますよ? じらいが多すぎるし、トラウマスイッチポチッてしたらきょーじゅの首がポロッじゃないですか。某ピタゴラスのスイッチみたいに」
紫苑さんは気が済んだのかこれからのプランを尋ねてきた。そこが問題なのである。
『誰ガ為ノアストリア』に登場するキャラ達は軒並み闇が深い。確かに一つでも間違えたらシオンの言った通り現実からゲームオーバーとなるだろう。困難がすぎるのだが。
全てにおいて厳しい世界だ。世界がリヴェールノクス帝国に対して、正しくはリヴェールノクス帝国軍に対して優しくない。
「こ、怖い表現するなぁ。……私に救えるかは分からないですけど、やれる限り頑張ってみようと思います」
「わたしもきょーじゅのお役にたてるようがんばりますね!」
ひとまず最終目標と小さなゴールをいくつか決めることにした。とは言っても、ゴールややることリストはその都度書き足すことになるだろうが。
【最終目標】
リヴェールノクス帝国の安寧
「最終目標はリヴェールノクス帝国の安寧ですね。イコールで敵国に勝利ですが、世界大戦が起こらなければ勝たなくていいですしね。まあ未来のことは分からないですから」
「そうですね。そのかていで幹部のみなさんのかこのしがらみ関係をけせたらいいですよね」
「そうだね。例えば人体実験所とかですかね。あとは宗教関係の所は国の不利益になり得るので。ゲーム通りならですが」
続いて実現させるために必要なものも書いていく。言葉にすればするほどその大変さがわかってきた。
【その為に必要なこと】
・財力 ・人脈 ・情報 ・立場
「お金と情報はいくらあっても足りない。それなりの立場にならなければ彼らに近づくこともできない。金策も情報も人が多ければ多いほど集まる。お金か人か」
「あ、う〜ん、でも」
紫苑さんが何かを思いついたようだが、言い淀んだ。良い案があるのだろう。
「何か案が?」
「ここ少しいくとすらむがいがあるじゃないですか。あ、あるんですけどね」
「はい」
「そこにきょーじゅが教えにいくのはどうですかっていいかけてやめました。いくらここいったいのすらむがひかくてき安全とはいえ、やっぱりあぶないですし」
スラムの人間に知識と働く場を与え、スタッフを手に入れようということだろう。ただ雇うだけでは裏切られる可能性があるが、その雇い主に恩があったら。
なかなか肝が座ったことを考えるものだ。確かに彼女が言う通り危ないが、やる価値はあるだろう。私は日記帳に書き込んだ。
「いいですね。私も賛成です。まずは話を聞いてもらわないとですが」
「いってしまったわたしはとめられないですが、すらむがいにいくならわたしも一緒ですからね」
「え! 危ないですよ」
「わたしまほうすっごく強いので、だいじょうぶです。あいきどーもありますし。きょーじゅとわたしの身をまもってにげることならできます」
確かに一応私も自分の身を守れるが、その場から逃げることが出来るかと聞かれたら難しい。その点攻撃魔法が使える紫苑さんがいたら逃げられる確率が増すだろう。二人でスラム街に行くのは殆ど確定でいいだろう。
「金策とかそこら辺はスラム街に行ってみてからじゃないと細部決められませんね」
「じゃあ次はきょーじゅが学園ににゅーがくするまえにすることですね」
【入学するまでにすることリスト】
・体力、知力をつける
・臨床心理学について学んでおく(医学、薬学も?)
・魔力量の増加。魔道具についても勉強
・↑魔道具は魔法陣を使うため魔法陣も学んだほうがいいかも
「こんな感じでいいですかね。取り敢えず戦闘力を身に着けないとですね」
私の言葉に紫苑さんも頷く。スラムに関することも含め、入学前から勉強が中心の生活になりそうだ。勉強は好きな部類なのが助かった。
「魔道具ってさっき書いていたやつですね」
「はいそうです。でんきエネルギーのかわりにまほうエネルギーをつかった家電だとかんがえてください。で、でんちのかわりがまほうせき」
「さっきの魔法石はここで使うのか。宝石みたいなものだと」
「からっぽになったまほうせきには、まりょくをこめ直せるんです。かいすうはグレードによりますが。にじでんちですよ、にじでんち。鉛ちくでんちてきな」
紫苑さんが絵を書きながら教えてくれた。流石、私より魔法に触れてきただけある。現代地球の知識もあるからか、これ以上もなくわかりやすかった。
「なら魔法陣はなんですか? 数学ではないでしょう?」
「かいろ担当です。これにそってまりょくをながすか、まほうじんの性質にあわせたまほうせきをつかうことで、まどうぐがつかえるようになるんです」
「なるほど」
科学技術による進歩が無い代わりに魔法技術が発達したのだろう。そういえば昨夜、私もシャワーを使ったっけ。外にあった使われていない街灯も魔道具なのだろう。
「あ、ならこれを仕事にしますか? 詳しい仕組みは分かりませんが、例えば、魔道具に刻み込む人が必要ならその斡旋を担う組織を作ればいいですし。魔法陣の発明で特許みたいなものがあれば、それを利用すれば売れますし」
「!それいいですね! ちきゅうのちしきがあるので、それをいかしていまあるまどうぐの改良だったりあたらしいものを作れたりするかもですしね」
きゃいきゃいと喜ぶ。いい歳してと言われそうだが、大変だと思っていた金策の目処がたったのだ少しくらい許してほしい。
ひとしきり喜ぶと紫苑さんはもう一度日記帳をみた。そしてペンを手に取り追加で何かを書き込み始める。
「きょーじゅ、これもついかです!」
「ん? な〜に? ……え、これも!?」
・外見を磨く。中性的な美を! 皆の性癖歪ませてやるんだ!
追加されたのはそんな文言で。それを見て吃驚しながら紫苑さんを見る。しかし、紫苑さんは目を輝かせて熱く語ってくるのみだった。彼女の熱量はゲームの時に思い知っていたはずなのに。
──今世の教授、絶世とまではいかなくても端正な顔立ちじゃないですか! しかも、東洋の神秘的な顔立ちに薄い色素っていう神聖さマシマシ、魔性もマシマシで。教授の仕草も相まってほんと魔性ですし。
これは磨かなきゃ駄目ですよ。っていうか、私が磨きたい。いや、磨かせてください。柔らかな見た目に対して中身教授だから、芯が強くてしっかりしているっていうギャップ! ならそのギャップの差を大きくするためにとことん儚くして……。
髪は、めっちゃいい染髪剤とか使って、つい触れてしまいたくなる髪にしましょう! 日焼け防止や肌の手入れをしっかり使って今の陶器のように白く瑞々しい肌を保って。ああ! 異世界あるあるですがやっぱり化粧品関係の発明もしましょうか。ええそうしましょう。大丈夫、ちゃんと覚えてるので。元国立理系志望舐めないでください──
半分も理解できなかった。が、楽しそうなので口が挟めない。
「わかりました? きょーじゅ。こんなかんじで見た目のレベルをあげましよう!」
「え、あぁうん。わ、かり、ました。でも、なんで見た目が関係あるんです?」
「いいですかきょーじゅ。せっかくこーすいじゅんな見た目とすぺっくをもっているのになにもしないなんてたからのもち腐れですよ。なので、ピッカピカにみがいて使えるぶきを増やしましょう! まずはてかずをふやさないと」
紫苑さんは私の手を物凄い勢いで掴んできた。絶対に逃さないと言わんばかりの気迫。あまりの熱意にやっぱりちょっと引いてしまった。
半分も理解できなかったが、折角紫苑さんが夢中になれそうなものを見つけたのだから。それに付き合うのも教師の努めだろう。
「ふふ、それじゃあ頼みましたよ。一緒に頑張りましょうね、助手さん?」
「っはい! よろしくお願いします! きょーじゅ!」
──こうして、教授改めテオドラと女学生改めシオンによる、難易度“ないとめあ”な異世界攻略が始まったのだった。
++++
「あ、自己紹介していませんでしたね」
「そういえばそうですね、わたしみずはししおん改めシオン・杠・レペンスです」
「おや、殆ど変わらないんですね。私は……」
「?どうしたんですか?」
「いえ、テオドラ・T・レペンスです」
「いい名前ですね! あれ? でも、テオドラってじょせーめいじゃ」
「博識ですね。あれです、魔除けです。地球でもあったでしょう?」
「ああ、なるほど。りかいしました!」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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