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教授と少女の前日譚(Ⅰ)

 三人称から一人称に変更、文章の簡略化をしました。読みやすくなっているとは思います。

 今まで書いていたストックがなくなるまでは毎日投稿を予定していますが、それ以降は不定期です。よろしくお願いします。



「あ、これってクリアってことです、よ、ね!」


 キラキラと装飾された音楽が鳴る。存外大きいその音は、周囲の書類に吸収された。

 スマホの画面には『HAPPYEND』という文字が映っている。


 私──白詰瀬央(しらつめせお)はそれを眺め嘆息(たんそく)した。腰掛けていた椅子に深くより掛かる。そうしてもう一度スマホの画面を見た。


 画面には多種多様なイケメンに囲まれた、顔のない主人公とともに『HAPPYEND』の文字。やはり見間違いではなかった。


「ストーリーは長めで、ゲームも少し難しいとはいえ、世間さんが言う程ではなかった気が……。そりゃあ、何回かバッドエンドにはなりましたけど」


 誰もいない研究室で独りごちる。乙女ゲームと銘打たれたこのゲームは、むしろ、言われていたとおり内政要素ばかりだった。まあ、だからこそやってみようと思ったのだが。


「まあでも、乙女ゲームではないですねぇ」


 苦笑を一つ零す。

 恋愛要素皆無で、それこそハッピーエンドのルートですら主人公は誰とも結ばれなかった、名ばかり乙女ゲーム。

 まるでイケメンさえ出ていれば良いだろと言わんばかりの暴挙。

 このゲームが無料でなければ景品表示法(けいひんひょうじほう)違反で訴えられていたかもしれない。



──瀬央が今までプレイしていたのは『誰ガ為ノアストリア』というスマホアプリの乙女ゲーム。

 巷では乙女()ゲームとして有名な一品である。

 一切出てこない恋愛的な甘さ(友人に対するものならば伺えなくもない)、それに反するかのように苦いバッドエンドの数々。そう、所謂鬱ゲーである。

 そんな、決して乙女ゲームらしくないとはいえ、男の瀬尾が乙女ゲームをプレイすることとなったのには対して深くもない理由がある。

 瀬央は椅子に寄りかかり、ゲームをプレイすることとなった元凶に思いを馳せた。






++++





──遡ること約三ヶ月。



 その日も、なんの前触れもなく研究室の扉が開いた。

 開いた扉から豪奢な金髪に黒いワンピースの少女が入って来る。

 西洋人形のような顔に碧い瞳を持った美少女。纏う雰囲気も相まって、どこか浮き世離れした印象を抱かせる。


「きょ〜じゅっ! 教授の自慢の教え子、水橋紫苑(みずはししおん)が遊びに来ましたよ〜」


 といっても、そんな雰囲気も口を開けば霧散(むさん)してしまうのだが。

 彼女の名前は水橋紫苑さん。私の自慢の生徒の一人である。

 眉目秀麗(びもくしゅうれい)才色兼備(さいしょくけんび)を意のままにする彼女なだが、いかんせん中身が少々残念だった。

 急に合気道を極めに大学を休学したり。先程のようにノックせず入ってきたり。講義のときは一番前で堂々と内職もするし、寝こけたりもする、そんな厄介な生徒。


 それでも、一番質問に来るのも紫苑さんだった。そして自惚(うぬぼ)れでなければ、私にとても良く懐いてくれている。だからだろうか、どうしても邪険に扱えない。


 リーダーシップに天性の愛嬌を持つ紫苑さんは、将来どんな職に就くのか。今から楽しみで仕方ない。ああ、話がズレてしまった。


 紫苑さんはスマホを持ってズカズカと研究室に入ってくる。

 今は見られて困るものがないため、止めはしない。


「きょ〜じゅ〜、遊びに……質問しに来ましたー!」

「はぁ……君ねぇ、本音がだだ漏れですよ? ちゃんとノックはしなさいって言っているでしょう。他の先生方にもそうしてるんですか? まったく。そ、れ、に、私は教授ではないですよ!」

「大丈夫です! 教授にだけなんで! そんなことより、教授はこのゲーム知ってます? 『誰ガ為ノアストリア』っていうんですけど!」


 小言が多いと将来禿げますよ、なんて紫苑さんは小言を聞き流しながらスマホの画面を見せてきた。

 そこには多種多様なイケメンのイラストとともに、大きく『誰ガ為ノアストリア』と書かれている。


「そんなことよりって。まったくもう」


 思わず深い溜息が漏れたが、紫苑さんは変わらずスマホの画面を見せていた。

 顔には大きく聞いて聞いてと書かれている。そんな顔をされては聞くしかないじゃないか。


「……ゲーム、ですか。私、あんまりゲームしたことなくって。なんて言うゲームなんですか?」

「このゲームはですねぇ────」


 紫苑さんはそう言うと目を輝かせて力説し始めた。あまりの熱量に後ずさってしまったのは内緒である。


──このゲームは、魔法がある世界のとある軍事国家を舞台にした乙女向けゲーム。いわゆる乙女ゲームってやつです。世界の作り込みがちゃんとしていてとっても面白いんですよ!

 大抵のゲームにあるはずのご都合主義がなく、あまりにも現実に近く設定がリアルなんです。魔法はありますけどね。


 このゲーム、普通の乙女向けゲームと違うところが多くて。戦争ゲームっぽいところがあるというか……戦争したり、内政の手伝いをしたり、戦略立てたり、と。

 戦争と歴史に対する知識が必要なゲームでして。私にはちょ〜っとっていうか、大抵の人には難しいゲームになっています。乙女向けゲームって名ばかりなんですよ、正直ね。


 巷では、


“乙女ゲーの皮を被った戦争ゲー”


“運営が恋愛させてくれないんだがwww”


“どこが乙女? 乙女要素が迷子してる”


って話題ですよ!!


 ……それってほんとに乙女向けゲームなのかって?

 いっ、いちおう、い、ち、お、う、乙女ゲームなんですよ?!! まぁ、恋愛場面は少ない気がするんですけど。それと、もう一つこんな風にもいわれてますね。“救いがない乙女ゲーム”……所謂鬱ゲーだって。



 そこで一度、紫苑さんは言葉を切った。説明を聞いているうちに無意識に入っていた力を抜く。

 紫苑さんは人に話すのが上手い。だからこそ、話に惹き込まれた。


「聞けば聞くほど乙女ゲームっぽくないですね」

「でしょうでしょう! 私にはちょっと難しいんですよ。そこで教授の知恵をお借りしたいなって思いまして」

「ああなるほど。だから私に見せに来たんですね」


 紫苑さんの思惑(おもわく)がわかり苦笑を一つ溢す。いつもいつも彼女は突発的なのだ。そこが彼女の欠点でもあり愛嬌でもあるのだが。


「というか、さっきやばそうなこと言ってませんでした? 救いがないみたいな……なんでそう言われてるんですか?」



──“乙女ゲーの皮を被った戦争ゲー”っていわれている通り、この物語は主人公がリヴェールノクス帝国軍に所属するところから始まるんですね。あ、国名がリヴェールノクス帝国なんです。


 で、軍にスパイが来たり戦争したりするわけですよ。その過程で攻略対象達と絆を深めるんですけど。

 ……大抵のゲームはアシストがあったり、もう少し簡略化されてたりするでしょう? このゲームの救いがないところの一つはそこなんですよ。

 アシストなんてない、簡略化されてはいるけどそれでも専門知識が必要な所もある。最早戦争ゲームって言われたほうが納得ですもん!


 このゲームが鬱ゲーって言われる所以なんですけどね。このゲーム……なんと攻略対象が死んだり、主人公がスパイと疑われて処刑されたり、暗殺されたり、自殺したり……。攻略対象だけじゃなくて、主人公も死んじゃうんです! いや、主人公は八割方死にます。どんなに頑張っても。

 しかもですね?! 攻略対象達の闇が深すぎるんですよ!! 元敵国だったり、実験たげふんげふんモルモットだったり、亡国の王子だったりって……。


 なので、会話の時に地雷踏んだりトラウマを刺激すると、攻略対象達の絆が深いので殺されたりします。

 まぁ、選択肢一個、内政のプランが一ミリでもズレていたら失敗。バットエンド一直線ですね。


 このゲーム完全に無料なので今まで沢山の人がプレイしているんですけど、ハッピーエンドどころか誰もトゥルーエンドにすらいったことないんです。かくいう私もいったことないんですけど。



「あらら、運営会社は何を考えて乙女ゲームにしたんですかね。そんなバットエンドしかない乙女ゲーム、本当に人気なんですか?」


 まさに地獄のような乙女ゲームだ。概要欄(がいようらん)を見ると、『ブルーローズ』という知らない会社だった。出しているゲームもこの一本のみ。それがなんとなく気になった。


「めっちゃ人気ですね。攻略対象の性格が魅力しかないんです! バッドエンドばかりといっても、まったく同じエンドなんてないんじゃないかというぐらい豊富で、リリースから半年程経っているのにまだまだ新エンディングが見つかるくらいです。

そ、れ、に、なんといっても全員顔がいいんです! イラストのクオリティが神ってます。ほんとグッズ出して欲しいぐらいですもん」


 私の思考を遮るように紫苑さんが語り出す。

 ガチャの説明になった途端、より熱が入った声色になる。まさかそこまでのめり込んでいるとは思わなかった。また一歩後ずさる。


「スマホのアプリゲームなんでガチャがあるんです。完全無料で、ストーリーやミニゲームを進めるたびに貰えるお給料……ガチャ券みたいなので引けるんです。

ストーリーは重いし心苦しくなりますけど、毎月新イベントが来る上に全部顔がいいのでお給料を手に入れないという選択肢がなくてっ」


 そう言いながら紫苑さんはスマホを操作し、ガチャ画面を開く。美麗なイラストとともに待機音楽が流れ出した。


「凄くキラキラしてる。確かにイラストが凝っていますね、これは欲しくなってしまうかも」

「っでしょう! でしょうッ!! どうせなので軽く攻略対象達の紹介しますね」


 先程のゲーム説明のときよりも目が輝いている。寧ろ爛々としており、目がぐるぐると回っているような錯覚まで受けてしまった。



__この一番豪奢(ごうしゃ)で勲章が沢山付いた軍服の人が、エリアス・グラウ・ヴァルターシュタイン総統閣下です。一見冷徹で氷のような方ですが、仲間といるときのイラストの表情でやられる人が多いんです! リヴェールノクス帝国の総統で、頭の回転が良くて、プロフィールによると飛び級したらしいですよ。天は二物も三物も与えすぎですって!


 総統閣下の右隣のオッドアイの黒髪の方。この人はアレクセイ様ですね。総統閣下の右腕でとても有能な方です。無能には厳しいんですが、それ以上に自分に厳しくて。でも部下と仲間には優しいんです!


 左隣の麗人は、アル・フェティース様。女性でなく男性で、女装をしている方なんです。普段は、穏やかで常に優雅に微笑んでるんですけど、敵を相手にブチ切れたイラストがあってイメージがガラッと変わりまして。姉さんと慕っていたのに、あまりにもかっこよくて……。あれは惚れます。


他には_______



・金髪に色の変わる瞳の、神に愛された造形美を持つ男。『帝国の支配者』エリアス・グラウ・ヴァルターシュタイン


・黒髪ハーフバックにオッドアイが冷ややかに光る美丈夫。『総統の右腕』アレクセイ


・女性用にアレンジされた軍服に真紅のハイヒールの佳人。『紅玉』アル・フェティース


・着流しのような白い軍服を着こなした大和男子。『真白の葬送者』白霧龍之介(しらきりりゅうのすけ)


・アンニュイな雰囲気に一匙の妖しさがある煙管(きせる)を咥えた美人。『紫水晶』フェロー・ウィステリア


・金髪碧眼が煌めく傾国傾城の美貌を持つ色男。『翡翠色の忠犬』エイザ・フォーチュナ


琥珀(こはく)色の瞳と笑顔から太陽を思わせる美青年。『夕笑みの凶刃』アンセ・マキシチャン


・小柄な体躯に大きな弓、目隠しをしていながらも少年特有の色香を放つ美少年。『花弓の死神』レン・フェンオー


・マスクと長い前髪で顔を覆っているが、覗く瞳が力強い美男子。『絶望配達人』レイ


・気だるげな雰囲気で色気を醸し出す二枚目イケメン。『藍色の殉花』ディエラン



「二つ名も付いてるんですか?」

「そうですね。今見せているのは基本のストーリー上のカードで、これはカード名です。けどストーリーでは二つ名として出てきますね。エンドの分岐によって二つ名は変わりますけど大抵はこれですね」

「へぇ〜。皆さんイラストとはいえ、とても顔立ちが整っていますね」


 イラストだと言うのにとても美麗に描かれている。これが無料とは、人気なのも納得かもしれない。


「でしょうでしょう?! でもイラストレーターさんはおろか、声優さんすらも分かってないんです! ようはグッズが出ないんですよぉ。需要しかないのにぃ」


 紫苑さんは項垂(うなだ)れながらスマホを操作する。ゲーム制作に関わった人間の名前はほぼ確実にホームページ等に載ると思うのだが。

 このゲームに対する違和感が積み重なっていくが、考えても分からないことなので、一旦考えることをやめた。


「それにしても、なんで皆さんに様付けを? ゲームのキャラクターには変な、っていうか変わったあだ名がついていることが多いのに……」

「で!す!よ!ねぇ~! でも、リアコの子がめっちゃ多くてふざけた名前で呼ぶとブチ切れリプが来ちゃうから、迂闊に呼べないんですよ。リアコじゃなくても、同担拒否な人もいたりしますし。そうでなくてもストーリーが辛すぎてネタにも出来ないし

様付けの理由? そんなのプレイしてたら勝手に様付けになりますって〜皆カッコよすぎるんです! あ、これがガチャ画面ですね」

「りあこ? はぁ、知らん用語が出てきた。……あれ? この人って紹介されました?」


 そう言って一人のイラストを指す。薄茶色の髪に同色の瞳を持つ、これといって特徴はない男のイラスト。強いて特徴を上げるならば、その瞳孔が白く濁っているように見えるところだろうか。

 ……そういえば、死者は瞳孔が常人よりも白くなるって聞いたことある。

 これはたんにイラストに違いをつける為だろうが。今までの違和感が積み重なり、そこが引っかかった。


「え〜? 全員説明した気がしたんだけどな~。誰ですか? ……あぁ、この綺麗な人は攻略対象じゃないんですよ。というか、名前すらない人です。イラストもこれ一枚ですしね。ファンの間では管理人さんって呼ばれてます」


 紫苑さんは興奮が落ち着いたのか、ゆったりとした口調で話始める。

 あまりの落差に二度見してしまうところだった。というか二度見した。


「攻略対象達のプロフィールを教えてくれたり、現段階の国の状況を見せてくれたりしているんです。乙女ゲーのくせに好感度グラフはないんですけどね、いやはや乙女ゲーってなんなんですか」


 口を尖らせて管理人と呼ばれたキャラクターをタップする紫苑さん。


「ガチャは管理人さんの采配で決まっているって話題ですね。どんなゲームでも呼ばれるでしょうけど。謎が多い攻略対象達よりも、謎が多いキャラクターです。ゲームに関係ない可能性の方が高いって考察が主流なので分からなくても大丈夫だと思いますが」


「ビジュアルが儚げで惹きつけてやまないのでファンだって人もいます。それでも、やっぱりイラストも一枚なのでおまけみたいな人です」

「へぇ、そうなんですか……」


 私が指差した男はストーリーに一切の関係がないようだ。確かに立ち絵柔らかく微笑んでいるだけで、セリフの吹き出しは変われどイラストに変化は見られない。

 そのイラストだってシンプルなものだ。襟飾りがついたワイシャツに海月の透かし彫りが施されたループタイ。先程見せてもらった軍服姿のキャラクター達と比べると、特にその平凡さが浮き彫りになる。

 なんとなく見つめていると、キラリと胸元についているループタイが光った気がした。


「そういえばこのキャラ少し教授に似てますね!」

「えぇ、そうですか? あまり似ている気はしませんけど。それに、私ネクタイですし。……この人本来の目の色ってもう少し白いですか? 瞳孔が白い気がするんですけど」

「雰囲気がですよ、雰囲気。後で聞かせますけど声もそっくりで。教授が声当てでもしました? なんてね

それよりも、教授の説初めてでたかもです。ホントだ、もしかしたらカラコンかもしれませんよ。よく気が付きましたね」

「えっ? 皆さん気づいていなかったんですか?」

「えぇまぁ、声ありとはいえサブキャラですし、イラストだからで済ませられることなので……」

吃驚(びっくり)しました』


 二人で管理人さんについて話していると、不意にスマホから音声が流れた。


「「ッ?!!」」

「しゃっ、喋った?」


 図ったような、此方(こちら)の話を聞いていたようなタイミングの音声に顔を見合わせる。


『ガチャを引きに来たんですか?』

「な、な〜んだ、ただのセリフですか。偶然とはいえ、びっくりしちゃいました。」

「本当ですね。こっちの声に反応したのかと思いました」


 続く台詞(せりふ)に安堵した。タイミングが良すぎただけのようだ。

 紫苑さんは納得したのか、私に顔を向けると再び布教をし始めた。ガチャの画面がチカチカと光っている。


「きょうじゅ〜、やりたくなりましたか? やりたくなったでしょう! やりましょ?!ね?

私バットエンドルートはエンド欄の埋まり方的にほぼ全て回収できたんですけど、どうしてもトゥルーエンドやハッピーエンドに辿り着けないんです! 手伝ってください!!」

「バットエンドルート全部回収?! どんだけプレイしてるんですか。学生の本業は勉強ですよ」

「教授もやりましょう!!!!」

「話を聞いてないですね」

「お願いしますよ〜次のテストは百点取るので」


ピクッ

 嫌嫌としていたが、紫苑さんの発言に動きを止める。

 先程の言葉はその場のノリというか勢いに乗せられたものなのだろう。紫苑さんも自分が言ったことの意味が分かったのか動きを止めて顔を青ざめさせている。


「……言いましたね? ならばやりましょうか。うん、君がそこまで言うのなら。そうしましょうか」


 私がそう言うと、紫苑さんは顔面蒼白(がんめんそうはく)にして言い訳を口にする。

 いやぁ~とかそんなつもりは〜、とか言っているが気にしない。それに、ゲームが気になっていたのは事実だし。


 スマホを操作し、ゲームについて調べてみる。話を聞いた通りストーリーの作り込みもしっかりしているようだ。

 バッドエンドに対する嘆きのコメントを除けば、口コミも概ね高評価。しかも完全無料。どんどんとハードルが低くなっていく。

 それに、テスト制作や前半分の成績付けも終わっている。論文も一息ついている今の時期、何もなく丁度暇を持て余していたのだ。

 興味もあるし時間もある。よし、このゲームをプレイしてみることにしようか。


「やってみてもいいですね。楽しそうですし」

「きょ、きょ〜じゅ〜。さっきのは言葉の綾っていうか、なんていうか百点は無理な気が……」

「おや、やる前からそんなに弱気でいいんですか? それに、君は優秀だから出来ると思ったんだけど……」

「〜〜〜ッいいですよ! 有言実行してやりますよ!」


 紫苑さんは腹を括ったのか強気に啖呵(たんか)を切りながら、私が開いていたページをタップしてきた。強制的にスマホがゲームのインストールを始めてしまう。

 言いたいことはあれど、紫苑さんがいつも通りのペースに戻ってくれて一安心だ。


「勝手に人のスマホ触らないでくださいな。……?なんか顔赤くないですか? 熱?」

「そんなんだから、教授は教授なんですよ!」

「どんな悪口?! 意図が分からないって

「なんでもないですぅ~。まぁ、教授は教授ですし、ね……」

「だから意図が分からないと。そんな哀れんだような目で見ないでくださいよ」

「それじゃあ、もしハッピーエンドにたどり着けたらいってくださいね~。多分難しいですけど」


 紫苑さんは捨て台詞のような物を言うと、足早に研究室を去ってしまった。

 後に残されたのは、苦笑する私と陽気な音楽が流れる待機画面だけだった。



 ここまで読んでいただきありがとうございます! 


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