第3話 古代の書庫と沈黙の影
アルデルの街は昼の光を浴びても、決して安心できる場所ではなかった。
商人たちの叫び声、路地裏での小競り合い、盗賊の気配――街は常に渦の中にある。
リシア・ヴァーネルは帳簿を抱え、失われた書庫の手がかりを探していた。
「……この街のどこに隠されているのか」
情報筋から得たのは、街外れにある古びた倉庫群。
誰も足を踏み入れず、しかし街の裏社会では名前が知られている場所だ。
リシアは赤い髪を束ね直し、低い影の中を歩く。
剣を腰に感じながら、一歩一歩、慎重に距離を詰める。
倉庫群に到着すると、重厚な扉が静かに鎖で閉ざされていた。
だが、施錠は簡単に破れるものではない。
リシアは慎重に扉を観察し、古い仕掛けを見抜く。
「……ただの防護じゃないわね」
微かに刻まれた古代文字。
触れると、わずかに振動する金属音が響いた。
この書庫には、ただの帳簿以上の価値がある――
古代の武具、そしてそれを巡る秘密。
扉を開く瞬間、背後で小さな物音がした。
振り返ると、倉庫の影に人影が潜む。
「……誰だ?」
無言のまま、影が一歩前に出る。
黒い服に身を包み、顔を半分覆った人物――明らかに敵意を含む存在だ。
「その帳簿、渡せ」
低く響く声。
リシアは剣を握り直し、戦闘態勢に入る。
「……話は要らない」
倉庫の中、光は乏しく、影が歪んで伸びる。
二人の距離は一気に詰まり、互いの呼吸が重なる。
リシアは敵の動きを見切り、一瞬で横に回避。
剣が床を擦り、火花が散る。
敵は素早く反応し、二本の短剣を振るう。
リシアの刃がそれを受け止め、ぶつかる金属音が空間に響いた。
「……昔なら、負けていたかもしれない」
心の中で、過去の自分を思い出す。
裏切りに遭い、孤独に立ち向かう日々――それが今の力を支えている。
数度の斬り合いの後、敵が一瞬の隙を見せる。
リシアは素早く踏み込み、肩に刃を押し当てる。
「降りなさい」
敵は沈黙し、刀を降ろすしかなかった。
リシアは帳簿を手に取り、静かに倉庫の奥へと進む。
埃に覆われた棚、古い箱、そして錆びた鎖――その先に、彼女が探していた「古代の武具」が眠っていた。
銀色に光る短剣。
手に取ると、微かに振動し、まるで生きているかのような温もりを感じる。
「……これが、帝国を揺るがす力……」
だが、喜ぶ間もなく、倉庫の外から低い声が聞こえる。
「……見つけたぞ、赤髪の剣士」
リシアは瞬時に身を翻し、剣を構える。
影が、さらに増えていた。
「……ここからが、本当の戦い」
赤髪の剣士は、古代の書庫に眠る秘密を胸に、再び街の闇へと踏み出す。
街の陰謀は、今まさに動き出したのだ。