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「ん……ううん……」
気がついた時は、あたしは布団の上に寝かされていた。
絶対に殺されたかと思ったのに。
それとも、あたしはタチの悪い夢でも見ていたんだろうか。いやむしろそっちの方が現実味がある。猫が大きくなって、妖怪になったなんて夢でも見ていないと説明出来ない。
「あ!源氏源氏!目が覚めたよぉ!」
「全く……アンタのせいですから、ちゃんと反省してくださいよ」
そして次にあたしの視界に入って来たのは、猫耳をつけたピンク髪の小さな可愛い女の子と、源氏さんの姿だった。
「ごめんねぇ。ぼく、遊んで欲しかっただけだったの。ぼくたちのこと視える人間なんて珍しいから、つい……」
「……?人間……?」
「……はあ。本来なら何も気にせず快適に過ごして貰いたかったんですが。こういう悪戯っ子がいますからね……」
「悪戯じゃないもん!ぼくは遊んで欲しかっただけだもん!」
「黙らっしゃい。擬態無しに遊びに行く奴がありますか。せめて半妖状態で行って下さい」
「あ、あの……全然話が読めないんですけど……」
話についていけず口を挟むと、源氏は大きく溜息をついた。
「……すみません。最初から伝えておくべきでした。俺のミスです」
「その、何か……あたしに隠してたってことですか?」
「はい。このアパート……《ヨロズ荘》についてです」
うん、何となくそれは予想してた。じゃないと、あんな格安な家賃で住める訳ないもんね……。
やっぱり、事故物件とかかな。でもここを紹介してくれた男子は事故物件ではないって言ってたような。
「《ヨロズ荘》は妖怪専用のアパートなのです」
……んん?
あれ、あたしの聞き間違いかな。今、物凄く不穏なワードが聞こえたような。
「妖怪専用……?」
「はい」
「ええっ!?ちょっと待ってください!あたしは人間なんですけど!?」
「それは存じております」
「じゃあ何でこのアパートに入居出来たんですか!?」
「……一応、一階のみ人間を住まわせることになっているんです。ただし、視えないし感じない、霊感がゼロの人間に限ります」
「つ、つまりあたし、視えないし感じないってことです?」
「いえ、ガッツリ視えてますね」
そうだよね!!
そうじゃないとさっきの現象に説明がつかない!でも、それってつまり、さっきのは夢じゃなくて、あたしはほんとに妖怪に襲われたってことで。
「で、出て行きます!!」
あたしはすぐに立ち上がる。
「ま、待って下さい!」
「待てません!!ここに居たらまたさっきの猫の妖怪がいつ襲ってくるか分かりませんから!!」
そういえばさっきの猫の妖怪はどこに行ってしまったのだろう。まあいい。せっかく助かった命だ。今すぐにでもここに出て行こう。次に出くわしたら……今度こそ殺されるかもしれないのだから。
「……待って!!」
そんなあたしを止めたのは、猫耳の女の子だった。