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「きゃああああああああ!!!!」
あたしは叫び、思わず腰を抜かしてしまう。
こ、これは夢だ。そうに違いない。だってそんな、非現実的なこと……!!
そう願って自分の頬を抓ったのに。痛い。
「何してるのぉぉぉぉぉぉ」
「いっ、いやああああっ!!」
目の前にいる猫の妖怪はその毛むくじゃらの大きな手をぶんぶんと振り回してきた。あ、あんなの当たったら、怪我じゃ済まない。
「に、逃げなきゃ……」
早く立ち上がって走りたいのに身体は完全に怯えてしまって、言うことを聞いてくれない。情けなくもあたしは這いずって玄関に向かうしか出来ないのである。
「追いかけっこぉ?きゃはは!待て待てぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「やだああああ!来ないでええええ!!」
猫の妖怪はまるで玩具でも見つけたかのようにあたしに駆け寄って来る。そして、手をあたしに向かって振り下ろし────
────あ、だめだ。
そう思った時は、もう既に手遅れだった。
「きゃあああああーーーーっ!!!!」
妖怪の鋭い爪が、あたしの服の背中の部分と、肌を裂く。痛いなんてもんじゃない。怖過ぎて、気を失っちゃいそう。だけどここで気を失ったらそれこそ命まで無くなっちゃう。でも、気を失わなかったってもう動けない。
ああ、あたしはこのまま殺されちゃうんだ……。
やっぱり、多少高くてもちゃんとしたところに住むんだったな……。安い家賃に釣られるんじゃなかった……。
あたしはぎゅっと目を瞑る。
どうせ殺されるのは分かってる。だけど、自分が殺される瞬間なんて見たくなかったし、最後の瞬間まで怖い思いをしたくなかった。
目を閉じれば、視覚的な恐怖からは逃れられる。
さあ、早く殺しなさいよ。いや、ほんとは殺されたくないけどやるならさっさと……!!
だけど、いつまで経っても "その瞬間" は訪れない。
「ど、どうしよう、どうしよう……!!」
……え?
突然、何とも情けない声が降り掛かってきて、あたしは思わず目を開けてしまう。
「……!!きゃあっ!!」
そこには変わらず猫の妖怪が居たのだが、様子が変だ。襲ってくる気配は無い。……というか、焦ってる?
「あっ……」
いや、あたしも危ないかも。くらくらする。気を失っちゃいそう。
どうせ殺されるなら気を失ってる間の方が良いかな……なんて思いながら、あたしは意識を手放した。




