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「……あっ」
源氏さんにいつでもお呼び下さいって言われても、連絡先とか知らない。聞きそびれちゃった。
まあ、部屋隣だし別にいいか。それよりも今は疲労感が凄くて……。
荷物は本当に殆ど無いし、こっちで揃えなきゃなあ。ちょっとめんどくさい。
でも、それよりも学校への入学云々の方が大変そうだ。一応その辺の手続きは親と一緒にやったし大丈夫だと思うけど。
というか、東京の学校ってすっごくチャラそう……。田舎育ちだったからついていけるかな……。
「……はあ……まあ全部……明日でいいかな……」
そんなことが全てどうでも良く感じるくらい、あたしは今猛烈に眠かった。
瞼がどんどん重くなってきて、そのまま眠りの世界に誘われる。
「んん……だめ、ちゃんと布団で……」
流石に床で眠るのは良くない。起きた時に身体が痛くなるのが目に見えている。めんどくさいけど、布団くらいはちゃんと引かなくちゃ……。
あたしは気だるげな身体を無理矢理起こして荷物から圧縮していた布団を出す。
「よし、これで大丈夫」
布団を引いて、その上に寝転がろうとしたその時だった。
「ニャー」
急に猫の鳴き声が聞こえてきて慌てて辺りを見回すと、何と先程敷いたばかりの布団の上に猫が丸まって寝ているではないか。
「え、ちょっと……何処から入ってきたの?」
動物は苦手じゃないけど、今から寝ようとしているのに布団を占領されるのは困る。
というか、何処の子だろう。もしかして、アパートの住人が飼っている猫かもしれない。だとしたら家に返してあげないと。うう、でも今すっごく疲れてるのに……。
「ニャー」
そんなあたしの心境など知らぬ、といった感じで呑気に猫は鳴く。ああもう本当に眠い。
「ごめんね……起きたらお家に送ってあげるから、今は寝かせて……」
「えー、寝ちゃうの?遊ぼう、遊ぼうよ」
「ごめんね、後で……」
……え?
今、喋ったの、誰?
だって、この部屋にはあたしと猫しかいないはず。でも、確かに声はした。「遊んで」って。
「……!?」
「ニャー」
慌てて声のした方へ振り向くとそこにはさっきの猫がいるだけ。我関せずといった感じで呑気に鳴いている。……ああ、眠過ぎて幻聴でも聞いちゃったのかな。
「ねえ、遊んで」
「えっ」
今度は間違いなく、聞こえた。
しかも、明らかに猫の口から。嘘でしょ。だって。
「ぼくと遊んで」
再度、猫が口を開く。
ねえ、これは夢?それとも疲れ過ぎてあたしが幻覚を見てるだけ?
お願い。誰かそうだと言って。
あたしが現実逃避をしている間に猫はどんどん大きく、恐ろしい姿になっていって……。
そう、まるで妖怪みたいな─────
「────あ、」
「遊んでええええええええ!!!!!!」