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「えっと……ここ、かな……?」
《ヨロズ荘》って書いてある。ここに間違いなさそうだ。
でも覚悟はしてたけど……結構年季の入ったアパートっぽい。この際贅沢は言えないけど。住める場所があるだけでも有難いと思わなくちゃ。
大家さんの部屋は101号室か。表札は……なんだろうこれ。読めない。かみがみまわる……?変な名前。
とりあえずインターホンを押してみるが、当然のように鳴らない。年季が入ってるから。修理してよ、と心の中でツッコミを入れながら扉を叩く。
「すみません、今日からここに引っ越してきた吉野です……」
……少し待ってみたが、返事がない。聞こえなかったのかもしれないのでもう一度呼んでみる。今度は少し大きめの声で。
「す、すみません!今日からここに引っ越してきた吉野です!」
……やはり、返事は無い。聞こえなかった?今の声量で?
やけっぱちになったあたしは、更に大きな声で呼んでみることにする。
「すみませーん!!今日からここに引っ越してきた吉野」
「うるせェ、聞こえてる」
言い終わる前に扉が開き、不機嫌そうな表情の男が出て来た。外見は悪くないが和服っぽい羽織にTシャツ、ジーンズと妙ちきりんな格好をしている。結構若そうだけど大家さんなんだ。
……というか、なにその言い草。聞こえてるならさっさと出てきてくれれば良かったのに。
「入居手続きすっから、入れ」
「お、お邪魔します……うっ」
招かれるまま部屋に入ったが、そこは一目で分かる汚部屋だった。なんか臭いも酷い!
「あー……入居手続きの用紙、どこやったっけかァ……」
大家の男はごちゃごちゃと散らかったその辺を手探りで探す。そりゃ見つからないでしょ……足の踏み場も無いんだし。
「これですよね」
すると今まで何処に居たのか大家さんの背後から髪をポニーテールにした黒髪の長身の男が現れ、用紙を大家さんに手渡してきた。
執事のような格好をしている。この大家さん、執事なんか雇ってるの?この部屋で?
大家はその用紙を無言で受け取ると、あたしに差し出してくる。
「ここ、サインしなァ」
「は、はい」
言われるがままにサインする。大丈夫かな、このアパート……。あたしが住む部屋も、すっごく汚かったりとかしないかな……。
「これに綴じて下さい。そこら辺に置いて失くすのが目に見えてますので」
執事風の男に手渡されたファイルをまたもや無言で受け取る大家さん。あまりにも気になり過ぎてしまったので、不躾とは分かりつつもあたしは聞いてしまった。
「あ、あのー……執事さん、雇っていらっしゃるんですか?」
……沈黙が流れる。
な、何で黙るんだろう。聞いちゃいけないことだったかな……。
自分の軽率(かどうかは分からないけど)な発言に後悔しつつ、話題を変えようと口を開こうとしたその時。
「……視えてンのか、お前さん」
大家さんが、ぽつりと呟いた。