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「私の知り合いが大家をしているアパートがあるんだ、確か一部屋余っていた筈だよ」
「ほ、ほんとですか!?」
それは凄く助かる。でも問題は家賃だ。2万円……いやせめて3万程度じゃないと困る。この際どんなボロアパートでもいいから……!
「あ、あの……それで、家賃……とかは」
恐る恐る尋ねる。ああお願い。どうか3万円程度の家賃でありますように……!!
「五千円」
「ごせっ……!?」
返ってきた答えにあたしは思わず噎せてしまう。
五千円!?東京で!?それって逆に大丈夫なの!?ちゃんと住める!?
「ご、五千円って!大丈夫なんですか!?」
絶対ワンルームだろう。そこは文句は言わない。でも多分お風呂もトイレもついてないんじゃないか、それ。選べる立場じゃないけど、心配になってきた……!!
「ちゃんと住めるアパートだし、お風呂とトイレもあるよ」
「じ、じゃあお風呂とトイレが一緒のやつ、とか?」
「心配しないでくれたまえよ。そこはちゃんと別々さ」
いや逆に心配なんですけど!そこまで恵まれてて五千円は絶対!!何か裏があるに決まってる!!
一応そのアパートの見取り図を見せてもらう。立地も部屋も、別に問題無さそうだ。それなのに五千円……?
えっと、部屋が安くなる条件って他にあったっけ……。
「もしかして……事故物件とかじゃ、ない、ですよね?」
しん、と場が静まり返る。
や、やっぱり!事故物件だったんだ!しかもこの値段、かなりタチが悪そう!!
「……事故物件 "では" ないよ」
しかし心配とは裏腹に彼から返ってきた答えは安心するものだった。
「じ、じゃあ何でこんなに安いんですか?」
「大家がかなりの変わり者でね、家賃とかめんどくさいって言って五千円しか受け取らないんだよ」
何だ、そうだったんだ。思わずほっと胸を撫で下ろす。よっぽどお金持ちなんだろうな、その大家さん。
「……でも、それで部屋が余ってるなんて凄いですよね。本当に事故物件とかじゃ、ないんですよね?」
「まあね。事故物件 "では" ないよ」
……何だろう。含みのある言い方だ。
だけど、これを逃したら本当に野宿する羽目になってしまうかもしれない。
ちょっと怖いけど……背に腹はかえられない。お世話になろう。
「えっと、じゃあ……よろしくお願いします」
「分かった。大家に話は通しておくよ。場所は……」
アパートの場所を教えて貰い、メモをする。
「あっ、ありがとうございます!あの、お名前は……」
メモを取り終わり顔を上げると、いつの間にか男子は居なくなっていた。
「え、いつの間に……?」
若干の恐怖を感じながらも、急ぎの用事でもあったのだろうと好意的に解釈をする。
そしてあたしは紹介して貰ったアパート……《ヨロズ荘》へと向かうことにした。