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もう絶体絶命……そう思った時、遠くから聞き慣れた声が響き渡った。
「サヨちゃんっ!!」
駅の階段の上から駆け下りる有翔ちゃん。人間の姿だが、瞳には鋭い光が宿り、まるで彼女自身が獣のように変貌して見える。
「離れろ、バカ妖怪ども!」
声と同時に、有翔ちゃんは妖怪モードに変化する。あの時出会った巨大猫の姿だ。有翔ちゃんの叫びとその巨大な姿に小鬼たちはたじろぐ。その隙を彼女は見逃さなかった。
「ニャアアアアアア!!!!」
有翔ちゃんがそのまま素早く爪を振るうと、次々と小鬼たちは弾けるように消え去った。
「は、はあっ……はあっ……」
「サヨちゃん!大丈夫!?」
人間体に戻った有翔ちゃんが駆け寄ってくれる。た、助かった……の?
「ごめんね、怖かったよね……!」
まだ震えが止まらないあたしの身体を、有翔ちゃんはぎゅっと抱きしめてくれた。ほんのり温かくて、少し落ち着いた気がする。
「だ、大丈夫です。ごめんなさい」
女の子(?)同士と言えどもあたしは生粋の日本人だ。こういったスキンシップには慣れていないし、気恥ずかしい。
心配してくれてる相手に対して悪いなと思いながらも、あたしは軽く胸を押して、離れて欲しいことを伝える。幸い有翔ちゃんは気を悪くすることもなく、普通に離れてくれた。
「……立てますか?」
「あ、はい……あうっ」
源氏さんに促され立とうとしたが、足に力が入らなかった。気が抜けてしまったのかもしれない。
「ご、ごめんなさい……」
「手をお貸ししましょう。掴まってください」
源氏さんが手を差し出してくる。男の人の手を取るなんて恥ずかしかったけど、これ以上ここに座り込んでいる訳にもいかなかったのであたしは源氏さんの手に掴まった。
「あれ?そういえば源氏さんって周りには見えてないんですよね……?」
「はい。霊感がない人間には視えませんね」
つまり今あたしは周りからは相当変な状況に見えるのでは。
「あっ、でもでも!ぼくは動物や人間に擬態できるから擬態モードだと普通の人間にも視えてるよ!というか、殆どの妖怪は擬態できるのが当然なんだよね!」
動物の擬態は最初に出会った時の子猫の姿のことだろう。で、人間の擬態モードは今の姿。電車に乗ってた時の姿は……半妖モードとでも言えばいいだろうか。それで、大きい猫の姿が妖怪モードと。
「成程。擬態モードだと霊感がない人にも普通に見えちゃってるってことですね。なら源氏さんも擬態モードにすればいいのでは……?」
「俺は妖怪ではなく、幽霊ですので。擬態は出来ないんですよ」
「えっ、妖怪と幽霊って違うんですか?」
「全然違いますよ。話すと長くなるので別の機会に」
確かに源氏さんの姿は霊感がある人にしか見えないんだから、ここでこのまま話しているとあたしが虚空に向かって話しかける人間に見える訳で。その話は別の機会にした方が良さそうだなと思いながら、あたしたちはヨロズ荘に帰宅するのであった。
第三怪に続く……




