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「無いね、この条件じゃ」
「ええっ!?それじゃあ困ります……!!」
あたしの名前は吉野沙宵。
訳あって、高校二年生のこのタイミングで東京に引っ越してきたんだけど。
「困るって言ってもね、こっちも商売だから」
「で、でもでも!ここなら高校生でも一人暮らし出来るってお母様が言ってたんですよ!」
というか、お母様がそこを確保してくれていた筈。だからこそあたしは安心して引っ越してきたっていうのに……!!
「悪いね。その部屋はもう売れちゃったんだよ」
「売れちゃった!?だ、だってちゃんとお母様が手配してくれてましたよね!?」
「うーん、そうは言っても売れちゃったからなあ。高い部屋で良ければ貸せるけど。女の子の一人暮らしでしょ?ここのマンションとかオートロックで良いと思うけどどう?」
「む、無理です!」
そう言って、あたしは不動産屋を出る。危ない危ない。このままじゃ高い部屋を薦められるところだった。
……あたしは、訳アリの一人暮らし。仕送りも相当少ない。それで高い部屋なんて借りたらそれだけで破産してしまう。
でも、このままじゃ何処にも住めない。
親に言って仕送りを増やしてもらう?でも、うちにそんな余裕なんか……。
「やあ、こんにちは。部屋を探してるのかな」
「……!!」
びっくりした。突然背後から話しかけられるなんて。
あたしは今日引っ越してきたばかりだし、こっちに知り合いなんて一人も居ない。恐る恐る振り向くと、そこにはあたしと同い年くらいの男子が立っていた。
「あ、あの、誰ですか……?」
「ああ、驚かせちゃったかな。それは悪かったね。何か困ってそうだったから、つい」
困っているか困っていないかで言うと、そりゃもう思いっきり困っている。猫の手でも借りたいくらいに困っている。
なのであたしはこの男子に悩みを打ち明けてみることにした。……だって、猫の手でも借りたいんだもん。
「ええ。すっごく困ってるんです。引っ越してきたのに住むところがなくて、お母様が手配してくれていた筈なのに……」
「あはは、お母様はひょっとしたらオキツネサマに化かされたのかもしれないね」
「……狐?」
この辺はそういう信仰があるのだろうか。ああ、引っ越してくる前に勉強しておけば良かった。
「新しい子が引っ越して来ることがわかって、オキツネサマも嬉しかったんだろうね」
「そ、そのせいであたし、めちゃくちゃ困っちゃってるんですけど!?」
まさか本当に狐に化かされたなんて信じてはいないけれど。オキツネサマの仕業だろうとなんだろうとあたしが困っていることには変わりない。どうしよう。このまま野宿する……?
「解決してあげようか、君の悩み」
「……えっ?」
そう言って男子はにっこりと笑ってみせる。