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そして放課後。
「……ふう。何とか授業にもついていけそうかな……」
であもやっぱり田舎とは雰囲気が違うな。誰も授業中にお喋りなんかしないっていうか……真面目だ。
「沙宵ちゃん」
「きゃっ!……は、晴臣くん。なんですか?」
「もう、そんなに警戒しなくても良いじゃないか。どう?学校には慣れそうかな」
「うーん……やっぱり田舎育ちなので、雰囲気に飲まれちゃいますね……」
「あはは、そうかい。もし良かったら少しでも学校に慣れるように私が校内の案内をしようか?」
……それはとても助かるかもしれない。
というか正直なところ、転校生なんてもっとちやほやされるものだと思っていたのだ。だけど、誰もあたしには話しかけてこない。
「クラス替えの時期に転校して来ちゃったからねえ。物珍しさもなくなっちゃったんだよ」
晴臣くんがあたしの心を呼んだかのように言う。……あたし、そんなに表情に出てたのかな。
「……で、ここは図書室で……」
結局晴臣くんに甘える形になり、校内の案内をして貰うことに。
「こんな感じかな。まあ分からなければその都度聞いてくれれば良いよ。他に気になることとかあるかな」
「うーん……ぶっちゃけると何が分からないかが分からない状態ですね……あっ!!」
「ん?何か気になることはあったかな?」
気になること……あった。
でもそれは学校に対してのことではないし、第一晴臣くんに言ったところで通じるかどうかすらも分からないことだった。
源氏さんと有翔ちゃん、どこ行っちゃったの!?
何となくついてきているつもりでいたけれど、電車内ではぐれてから今日一度も見ていない。ひょっとしたら学校にもついてきていないのかもしれない。
「あ、あの!案内してくれてありがとうございます!でもあたし、その、そろそろ帰らなきゃ……!」
「おや、ひょっとして忙しいところを引き止めてしまったかな?」
「だ、大丈夫です!でも今は急いでいるのでまた明日!」
二人が何処にいるかは見当もつかないが、とりあえず一番可能性のある駅に向かうことにする。
そして、その時のあたしはまだ一人で行動することの危険性を、よく理解していなかったのだ。
「……居た、晴臣」
「ん?どうしたんだい。古くん」
「お前、人祓いの幻術つかってただろ。吉野の身を隠しやがって」
「おや、気づいていたのかい」
何事も無かったかのようにへらへらと笑うこいつについ腹が立ちそうになるがぐっと堪える。感情を出したらこいつの…… "オキツネサマ" の思うつぼだ。
「転校生の割に誰も吉野に対して関心が無かった。それどころか放課後は俺からも見えなくなっていたからな」
「ひょっとして、君が沙宵ちゃんの案内をしたかったのかな。どうやら私はその役目を奪ってしまったようだね」
……いちいち癪に障る言葉を使う。こいつはそんなに俺を怒らせたいのか?怒らせたいんだろうな。
「ごめんね。でも、私も欲しくなっちゃったんだ。沙宵ちゃんが」
「お前が欲しいのは "引き寄せ" が持つ力だけだろ。吉野自身には何の興味もないくせに」
「そんなことないさ。可愛い女の子だと思っているよ。……現にふたつ、 "印" がつけられていたからね。俺のものだって」
「うなじの痣、お前も気づいていたのか」
「当然。……生まれた時に付けられた最も古い "印" と、その上からその "印" を消して、上書きするかのようになかなか濃ゆいのがね」
……やっぱり。既にマーキングされていたか、吉野沙宵。しかも "印" から漂う妖気は只者では無かった。いったいどんなやばい妖怪に好かれていやがるんだ、あいつは。
「うーん、悪い狐と蛇ってところかな。特に上書きされていた "印" は凄かったよ。よっぽど強く噛まれたのかなあ。彼女に深く執着しているんだろうねえ。気持ち悪いなあ」
「多分、お前にだけは言われたくないと思うぞ。というか、お前は悪い狐じゃないのかよ」
俺の煽りに、晴臣は満面の笑みで答えるのであった。
「いいや、私は良い狐だからねえ」




